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編集・削除(編集済: 2024年09月10日 18:37)

光源  鯖詰缶太郎

肩で風以外のものも切ってきたのか
浅黄色と暗礁の中に沈むような紅が
四辻の中で
俺の弱音を待ち構えている

テトラポットに
二時間 佇んだ
深海のことに想像を巡らした
でもなにも思い浮かばない

深海はどうせ まっくらだ
深海はどうせ まっくらなのだと
またそのままにしている

本をもっと読まなければならない
身体をもっと鍛えなければならない
腹筋はわれて
はじめて腹筋なのだと思わなければならない
成功者の話をもっと聞かなければならない

四辻に 光を通す
あれが あんな 暗く卑しい目つきで
俺の欲望を見透かす あんなものが
ブラックホールのように光を通さない
絶望であってたまるか
生きたまま 行き止まりを
行き止まりだとも 気づかずに
おろおろするのが 人生であると
わりきろうと おもっていたのに
わりきれるほどの整合性を
本に見いだせなかったからか
腹筋もわれなかったからか
成功者の書いた本が
どこぞで読んだ自己啓発本と
内容がほぼ一緒だったからか

なにかが違うと思った
なにかが違うから
あの四辻に 光が通らないと
思い込んでいるこの苦悩も
ずっと間違えていたのではないかと
そう思った
そう思えた
本当にそうなのだろうかと
まだ疑っているけど
そう思いたいと
今度こそ 四辻を 真っ直ぐに みつめた

編集・削除(未編集)

曼珠沙華の記憶  上田一眞

秋のお彼岸を迎えた
その日
手を引かれて
母の生家へ続く道をとぼとぼと歩いた

垰(たお)越えに一陣の風が吹き *1
曼珠沙華の花が波打った
鮮烈な赤を見て
母が囁く

 どぎつい色じゃろ
 毒をもっちょる花よ
 死んだ人の血を吸うたから赤いの

幼い私は薄気味悪くなって
思わず身震いした




道の途中
コールタールをたっぷりと塗り込めた
黒い板塀が続く
油がプンと臭う
ああ ここは瘋癲(ふうてん)病院だ

曼珠沙華が咲き揃う中に
屹立する
こころの病を施療する瘋癲病院

私はここを通るのが大の苦手だった
嫌だった
風に運ばれて来る
死人(しびと)が発するような声音(こわね)に
恐怖した
 
  かりかりかり 
  かりかりかり
  くうくうくう
  くうくうくう

建屋内から道路まで漏れ出る声
呪詛のようであり
読経のようにも聞こえる

板塀のそばで立ち竦んでいると
曼珠沙華に赤く染まった病者の声が
私の鼓膜を貫き
脳髄の奥底を穿つ

その禍々しさに
悪心で真っ蒼になった



  
あれから五十年の歳月が流れた
いま私は
こころの病と闘い
他の精神病患者とともにいる

渺とした大部屋の中
ベッドの上に正座し 白い壁に向かって
ただただ 発声する者たち

  かりかりかり 
  かりかりかり
  くうくうくう
  くうくうくう

際限のない繰り返し
意味の喪失
病んだ語り部が虚空に話しかける

人格の統合を欣求(ごんぐ)する
こころが
神仏に救いを求めてもがく

彼らの姿を見ていると
遠い日の瘋癲病院が思い出され
病者らの孤独と絶望が瞼の裏に重なった




病室に囲まれた診察室で
白昼夢を見た

黒く変色した曼珠沙華の花が
私のこころを覆い
絡め取ろうとする

イヤイヤをして風に靡く花を手折り
こころの窓より
投げ捨てる
何度も何度も放り投げる

私はいま
過ぎた歳月の質量を思い
寛解を期して
黒い板塀と赤い曼珠沙華の花に
別れを告げる





*1 垰(たお) 元来 山の尾根の窪みを指す
  山口県東部(周防)では緩やかな峠を特
  に垰「たお」と呼ぶ

編集・削除(編集済: 2024年06月15日 04:32)

夏生さん ご評ありがとうございました。

ほんの短い何でもない作品を、丁寧によんでいただき
ありがとうございました。
また高いご評価ありがとうございました。
本当にお気持ちの優しい評だと思い、
うれしくなりました。

編集・削除(未編集)

午睡   秋乃 夕陽

誰かの詩を読んでいてふと意識が途切れる
微かな自分の寝息に気づいて
少し慌てて瞼を開いた
どうやら座布団の上に座ったまま
眠り込んでしまいそうになっていたみたいだ
心なしか頭がズキっと痛くて重い
皺を寄せた眉間に人差し指と中指を添える
生暖かく湿った風が
慰めるようにスウっと撫でていった
若干斜め下に向けていた視線を
少しだけ前に向けると
テーブルの端に行き当たった
ところどころ焦茶色の表面が剥げて
子鹿のように薄茶色の斑ら模様が
ランダムに散らばっている
心のなかにも斑ら模様は入り込んで
ゆっくりと消化してゆく

「さあ、ご飯の支度しなくっちゃ」

私は本の扉を閉めて背筋をまっすぐ伸ばし
寝起きで若干ふらつく頭を押さえながら
慎重に立ち上がると
夕飯の準備をしに台所へと向かった

編集・削除(未編集)

夏生様 評のお礼です 紫陽花

夏生様こんばんは。影まで感じて読んで頂きありがとうございます。私も書いてみて、そのうちエネルギーを生み出すためだけの燃料人間が作られたら怖いなあなんて変な想像をしておりました。ただ、純粋にこの少子化がとても心配で子供の笑い声泣き声などを聞くたび、未来はこの子達が笑ってられる世界をと祈ってしまってます。またよろしくお願いいたします。

編集・削除(未編集)

夏生 様、「祖母の好きな花」についての評価ありがとうございました。  秋乃 夕陽

夏生 様、「祖母の好きな花」についての評価ありがとうございました。
佳作、とても嬉しいです。
祖母がもし生きていたら、とても喜んだろうなあと思います。
今度祖母の好きな花を持って、墓前にも報告しようと思います。
本当にありがとうございました。

編集・削除(未編集)

夏生さま 評のお礼 益山弘太郎

初めまして。有難うございます、そして 宜しくお願い致します。 自由に展開していく勢いの爽快さ、とのお言葉 嬉しく頂戴致しました。最近 シュルレアリスムに触れまして、Facebookグループ「詩論そして詩学」に頻繁に投稿を為される 坂本達雄さんに傾倒して、作った詩なんですよ。坂本さんはその逸材性をまだ 世に自ら広く表出していませんけど、その投稿を読むと, 凄まじい 詩人・哲人 と私は 感心し切っています。どうぞ、坂本達雄さんへの ファンの方が増えますよう, 念じる次第です。 草種々

編集・削除(未編集)

2024年5月28日から5月30日までのご投稿分の感想と評です。 夏生

大変お待たせいたしました。
2024年5月28日から5月30日までのご投稿分の感想と評です。


「想像とintonation」益山弘太郎さん

益山弘太郎さん、初めまして!
ご投稿くださりありがとうございます。
初めての方は感想のみとさせていただきます。ご了承ください。
では、僭越ながら御作「想像とintonation」の感想を送らせていただきます。

<君は突然窓のブラインドゥを上げると
部屋の中から飛び出してきた

想像が一気に飛び上がります。
次の展開

<ラトビアの森林から
果実の実が塩漬けにされた花瓶に
太陽の光が反射している

君はどうしたのか考える間もなく
展開されていきます。勢いがあります。
夢の中にいるような、辻褄の合わなさが面白いです。

<このランプの下でいったい
何年の月日が揺らめいているのだろう

次の想像が展開されます。

<人工衛星が墜落しかねないぞ
君の力でなんとかするんだ

「きみ」は誰なのか。主人公か別の登場人物か
読み手か。はっきりしない面白さは詩の醍醐味です。
自由に展開されていく勢いを爽快に感じます。

4連目から雰囲気が変わります。
舞台裏のつぶやきのようです。
5連目は銀河まで広がります。
<異星人が果実を狙っている
<この星の独立は保たれるのか?
と不安が過ります。

6連目は夢から覚めたようです。
幸福感を感じる最終連。
自由な想像が一篇の詩に昇華されていました。
ユニークな一篇でした。
次のご投稿をお待ちしています。



「闇夜のカラス」 喜太郎さん

喜太郎さん、今回もご投稿くださりありがとうございます!
僭越ながら御作「闇夜のカラス」の評を送らせていただきます。

一連目からいいですねぇ。誇り高きカラスが登場します。
二連目はそのカラスを見た人の視点です。
>おちょくるようにひょいひょいと
その場で煽るように
黒い目で見てやがる

人はカラスを忌々しく見ています。

三連目はカラスの視点です。
<俺はここにいる
とは、なんて堂々としているカラスでしょう。
たしかにカラスが弱々しくしているところを見たことが
ありません。何を思って、何を考えているのだろうと
興味深く見たことがありました。
目を合わせないように注意しながら。
この詩はそのとき見たカラスの心の言葉のようで
面白く感じました。

<闇夜にまぎれて逃げやしねぇよ
群れることなんてがらじゃねえ

潔く凛としたカラスです。

最後の連では忌々しく思ったカラスに
触発されたような「人」の心の変化が描かれています。
ここもいいですねぇ。忌々しいで終わらない。
「人」もカラスに負けじと胸を張るようになる。
読後、元気になれる一篇でした。
御作佳作とさせていただきます。



「フラットアース・シンドローム」 香月さん

香月さん、今回もご投稿くださりありがとうございます!
僭越ながら御作「フラットアース・シンドローム」の評を送らせていただきます。


<このまま夜空の果てへ行こうか
が繰り返しがあるところから、曲をつけて聴いてみたい詩だと思いまいました。
<あなたとわたし、手を携えて
<取り巻く重荷に別れを告げて
二人は逃避行をしようとしているのでしょうか。ロマンが広がります。
この心境になるまで様々な葛藤や困難があったのでしょう。
二人の物語を考察したくなります。
解放感への憧れと恐れが詩の周りを縁取るようにありました。
さらに展開させるか、ここまで来る経緯が描かれていますとより惹きこまれる作品に
なるのではと思いました。
またのご投稿をお待ちしております。



「タンポポ色のカーディガン」 森山 遼さん
カーディガンを羽織る人はおしゃれな人、という
私の勝手なイメージですが、憧れのようなものがありました。
自分も羽織ればよいのですが、薄手のパーカーなどで済ませて
しまいます。この詩を読んで、着られる期間は短いけれど、
季節の絶妙な心地よさを楽しめる時期にピッタリなカーディガン
は魅力的で。
タンポポ色、という表現も良いですね。春の香りを感じます。
読後が心地よかったです。
佳作半歩手前とさせていただきます。
またのご投稿お待ちしています。



「ひるむ」あこさん


あこさん、今回もご投稿くださりありがとうございます!
僭越ながら御作「ひるむ」の評を送らせていただきます。

お互いの顔を見る。見てしまう。その衝撃。
ひるんで顔を逸らしてしまった「私」は自分自身に立腹し
情けなさを感じます。
>意を決して もう一度視線をあげ
今度はしっかりと彼女と目をあわせ
かすかに微笑して 会釈した

顔を逸らしてしまったことへの罪悪感を感じます。
数秒前の自分の行いと悔い改めようとする行為のようです。

<プイッと 顔を逸らした
もう2度と 私を見なかった

女性の反応から「私」はさらに心を揺さぶられます。
そして「私」はこの出来事を大きく捉えます。

<あの前の自分と
あの後の自分と
どこかが確実に 変わる
変わらなければならない


なぜ、どうしてというよりも
これは自分自身の課題だと
言っているように感じました。
自分だったらどう捉えるだろう、と
考えさせてくれる一篇でした。
御作佳作とさせていただきます。



「子供エネルギー発電パネル」 紫陽花さん

紫陽花さん、今回もご投稿くださりありがとうございます!
僭越ながら御作「子供エネルギー発電パネル」の評を送らせていただきます。

とっても広い公園なのに、ボール遊び禁止、自転車禁止、木登り禁止
など禁止ばかりの公園多くなりました。なんのための公園か。
大人の運動用みたいなところもあります。こどもがいない公園のなんと
異様なことか。ベンチもない公園もあります。憩うこともできません。
安全のため、といいますが行き過ぎているような気がします。

この詩は2連まで大人中心の社会にこどもが委縮してしまった
息苦しさを感じます。どんな展開になるのか不安と緊張がありました。
3連目でこどもが大人になって科学者になって子どものエネルギーを
発電に使うことになります。見事に成功してこどもが笑って自由に
走ることができる明るい展開になりました。
ほっとして、ふと思いました。これも大人中心の社会なんだなと。
こどものエネルギーを消費するわけですから、よく考えたらかなり怖いです。
現実ではこどもを自分の欲の道具にする大人、搾取して儲けようとする大人が
たくさんいます。その影も感じました。

<地球の未来を救うのは いつだって子供だ
この言葉が、思いが世界中に広まって欲しいと思いました。
御作佳作とさせていただきます。



「祖母の好きな花」  秋乃 夕陽さん


秋乃さん、今回もご投稿くださりありがとうございます!
僭越ながら御作「祖母の好きな花」の評を送らせていただきます。

水仙もフリージアもやさしい香りがあって、可憐な色合いは
心を元気にしてくれます。花言葉も親愛、感謝、優雅で怖い花言葉はないのだとか。
その理由から贈る花として人気が高いそうです。
この詩を読んで、「私」の「祖母」に対する愛情の深さを感じました。
一連目から「祖母」への花についてリサーチして探し回ります。
相手のために動く。相手が喜ぶことをするために苦心する。
この場合の苦心は、幸せの一部のように感じます。とても良いものです。
「祖母」の歳の数だけ水仙を買って家路へ。バラの花束はよく出てきますが、
水仙の花束はきっと明るくて可憐で素敵だろうなぁと、あたたかい気持ちに
なりました。花の香り感じる一篇でした。
御作佳作とさせていただきます。

編集・削除(未編集)

煙は危ない 紫陽花

煙は危ない

遠い遠い昔話の中で浦島太郎は煙を浴びて鶴になってしまった
立ち込めた煙の中には何かが潜んでいる
きっと煙幕の中からは正体不明のものがでてくる
煙は不穏の象徴だ
煙と言うだけでも危ない

さて今日は消防訓練の日だ
放課後子供教室の1年生向けの訓練なので
9人の小学1年生がひとりずつ
順番に煙の部屋に入る予定だ
グレーの消防服を着た消防士さんが話始める
これからみんなに煙の部屋に入ってもらいます
今日は練習なので真っ白の煙は少し甘い
バニラの匂いを漂わせています
実際とは違いますが立ち込める煙の中
どれくらい前が見えるのか確認してください
煙は怖いですよ
本当の煙を吸うと頭が痛くなって倒れてしまいます
本当の煙には近づいてはいけません

消防士さんは真剣な顔で一人一人見渡しながら
ゆっくりと話し 誰から入りますかこの部屋にと聞く
ここで男の子1人が泣き出し先生がその場から離す
その泣き声が小さくなるのを確認しながら
また一人私怖いからお部屋に入りたくないと女の子
ただここで見ているという
残り7人が順番に煙の部屋に入る
布製の扉が開くとそこはもう真っ白
扉の横にいる消防士さんの手を握って
手の届くところまで入る そして出てくるを繰り返す
7人は案外楽しそうに何も見えないと
キャーキャー騒ぎながら訓練を終えた
入らなかった女の子も何故か一緒に騒いでいる
ほんの少し扉から見えた煙で恐怖を刷り込んだのだろう
離れたところにいた男の子は戻ってきたが
過呼吸気味になっている
今回は体育館に移動してもらった
誰よりも煙を吸ってしまったようだ

煙です 白いです 何も見えなくなります
本当の煙を吸うと死んでしまうこともあります
この言葉を吸い込んでしまって
結局男の子は帰るまで体育館に横になっていた
煙は本当に危ない

編集・削除(編集済: 2024年06月12日 23:18)

澤様 ありがとうございます

澤様 一番大事な今回も温かい見守りをありがとうございます。が抜けてます。こんなにうれしかったのにです。すみません。

編集・削除(未編集)
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