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編集・削除(編集済: 2024年09月10日 18:37)

割れなかったガラス瓶 喜太郎

一軒の骨董品屋の中
辛いことや 
何となく気が滅入った時は
ここに来る
少し埃を被った骨董品たちが
時の流れを忘れさせてくれる
そんなある日 一つのガラス瓶に目を惹きつけられた
厚さは不均一で気泡も入ってる
それでも淡い色の光が網膜に優しく沁み込んでくる
店主が奥から声をかけてきた
『大正の頃のガラス瓶だよ
手作りでね 何となく良いだろう?』
『じゃあ この気泡の中には
その頃の空気が入っているのかな?』
『ああ 何より今君の手の中にあるまで
割れることなく存在してきた』
僕は思わず呟いた
『割れることなく今ここにある……』
割れてしまえはガラス屑として捨てられていたかもしれない
今こうして巡り会えた一つの奇跡
店主が続けて話した
『恋人はいるのかい?
いるとしたら その人とは幾多の出会いと別れをくり返して
割れることなく君と出会えた
そして今は二人で愛を育んでるんだろ?
人もモノも出会いとは不思議な縁なものさ』
僕は割れなかったガラス瓶を買った
それに飾る君の好きなトケイソウを買いに花屋へ向かった

編集・削除(未編集)

生き方  相野零次

自然を愛し 誰かを愛し
素直な気持ちで語り
心に思い描いた夢を
ふっと浮かんだ
メロディーに乗せて唄う

自然の為に 誰かの為に
無償の愛を捧げ
我が身を粉にして働き
どんなときも笑顔を絶やさない

何事もその身一つで受け止め
どんなことにも動じない
弱き者を助け強者にも屈しない
勇者のような強さが欲しい

それでいて
悔しいときには
歯を食いしばり
我が身の愚かさに地団太を踏み
萎れる花を見て眼を潤ませ
少年少女のひたむきな頑張りを見て
自分自身を鼓舞する
そんな人間らしさも損なわない

そんな生き方ができれば
どんな贅沢な暮らしよりも
素晴らしい人生が得られる気がする

少しでも叶えたいと
どこまでも愚者なわたしが
心に誓う
神様に届きますように

編集・削除(未編集)

きぼうがはいっています  人と庸

「きぼうがはいっています
おすきなものをえらんでください」

そうか きぼうがはいっているのか

店先にたくさん並んだ
色も形もさまざまのグラス

ひとつを手にとって見ると
湧き立った無数の空気の球が
空を目指してどんどんと昇っていき
今にも弾けんとするまでの軌跡が
見事にガラスの中に閉じ込められている

そうか これがきぼうか

海底の宝物のように
グラスの底の部分にひとつだけあるきぼう

グラスの表面に
大きいものと小さいものが規則正しく並んだきぼう

ガラスの内部で激しい渦が起こっているのか
球体がつぶれて楕円体になったきぼう

きぼうはこんなにたくさんあった

時の渦のそこここに
少しずつ落として 忘れて 手放して
思わぬ場所まで来てしまったけれど

きぼうはここにもあった

グラスの底から光を透かしてみると
水中から空を見上げているみたいだ

ではこの 空に昇っていくきぼうのひとつひとつは
生命の息づかいか

過去のどこかで見たきぼうを一瞬思い出したけれど
すぐにまた忘れてしまった
かならずしも必要でないのかもしれない けれど

「きぼうがはいっています
おすきなものをえらんでください」

きぼうをひとつ
えらぶ

編集・削除(未編集)

帰っていく者 向かっていく者    晶子

いつかは空に帰っていくと
人々は言う
まるで青空の先に
帰るべき故郷があるかのように
いっさいのものが解けて消えて一つとなる
誠の空

かたや

一つの志が
同じ空に向かって高く頭を上げている
人々の叡智を結集した宇宙ロケットが
己の向かうべき蒼穹に
その先の真空の宇宙に
まっすぐな視線を向けて

人は消え
文明は消え
辿り着くのは
同じ空なのかも知れない

それでも

ロケットは地を振り解き
無遠慮に空を裂き
身を切り離しながら
仏神の世界のその先に
罰当たりといわれようが
祈りながら
虚空に何かを掴みにいく

私たちの孤独をそのまま抱えて
蒼穹に放たれた
一本の白羽の矢

編集・削除(未編集)

ヴィランの言い分  静間安夫

ヴィランの言い分
―「われわれの同志、人民委員会議議長 V.L.は昨21日、脳出血により…」

ようやく来たのだ
この日が
待ちに待っていたこの日が
あの男が死んだ今
もはや俺の行く手を阻む者はない

それにしても命拾いをしたものだ
あの男が密かに
病床で認めた遺書が
もし公になっていたら
今度ばかりは俺も
ただでは済まなかったろう

遺書を託した相手を拉致して
収容所送りにし
遺書も闇に葬った以上は
そのメッセージが
誰かに届くことはもはやない
それもこれも
俺が手塩にかけて育て上げた
諜報網と工作員のおかげだ!

そもそも
俺がこうした汚れ仕事に
手を染めるきっかけを作ったのは誰だ?
あの男ではないか!

スパイ活動だけではない―
党の命令に従わない農民を弾圧し
穀物を掠奪して飢餓に追い込み
返す刀で
われわれを批判する政敵を粛清し
はたまた密告を奨励して
民衆を恐怖で支配する体制を作らせたのは
あの男だ!

なるほど
「何もお前にここまでやれ、
 と言った覚えはない」
ああいうエリートは
そう言って自己弁護をするに違いない―
確かにあの男は
「治安を維持し
 食料を確保せよ!」
とだけしか言わなかったかもしれない

だが
革命後の大混乱の中で
外国の侵略を受けながら
治安を維持し
食料を確保しようとするなら
他に一体全体、どんなやり方があったというのか?

もう一度言うが
おれはあの男の命令を忠実に実行しただけだ

…にもかかわらず
遺書の中で俺を貶め
他のエリートたちに忠告するとは―
「あの粗暴な男を警戒せよ」だと⁈
「革命の行き過ぎを抑え
 漸進的な改革へ舵をとれ」だと⁉︎
「革命の理想も愛国心もない野心家に
 権力を握らせてはならない」
ずいぶんな言われ方をしたものだ

だったら こちらも言わせてもらおう

たしかに俺は
ろくな教育も受けたことのない たたきあげさ
「理想」だの「愛国心」だの目に見えないものは
いっさい信じないリアリストさ

だが それだからこそ
革命以来 今日まで
そして これから先も
党と国家が生き残るために必要なことが何か?
手に取るようにわかる―
何よりもまず反対派を摘発し、粛清し
権力の集中を図ること、それに尽きる!

まさにその目的を全うするために
警察国家を構築し機能させてきたのは
他でもない―この俺だ!
その俺が全権を掌握して何が悪い?
「野心家」と言われようが構うものか
覚悟がすべてだ!

それにひきかえ
しょせん あのエリートたちには
悪名、誹謗、中傷を物ともせず
冷徹に果断に事をなす度量などない
それでもなお 彼らの中から
俺に反対し、行く手を遮るものが現れたら
そのときは容赦しない
狡猾で残忍な秘密警察に命じて
陰謀を巡らし
無実の罪で陥れてやる!

そのとき
革命裁判所が下す判決は
「流刑地での強制労働30年」
罪状はもちろん
「国家への反逆、並びに陰謀罪」だ!(了)


*タイトルと詩行の間に一行挿入したので、それぞれの位置関係を明確にするために、
 再度タイトルを入力致しました。

編集・削除(未編集)

死んじゃうなんてイヤだ  まるまる

 死んじゃうなんてイヤだ
幼稚園からの帰り道 長男が 
何かあったのかな
「雪が解けちゃうなんて嫌だよ」
冬にそう言った時と 熱量は同じくらい
でも ドキッとした

私も怖かったから
ゴールがないほど 怖かったから
それで 母に言ったのに
小学校の先生に言ったのに
答えはもらえなかった

拠り所を必死で探して
ようやくの解決策は 
一秒たりとも無駄にせず
夢を実現させたらどうか
もしも手が届かなくても
納得するまで挑戦できれば
悔いはない 
やりきる ということ

安心できたような できないような
でも それで精一杯

夢は叶わず
納得は 過ぎた時間が
連れて来た

その私は 大人になった
安心させてあげられる 答えの準備を 
しなくちゃ
この子が本気で怖がる前に

もらった命を無駄にせず
誇れるように生きられたか
自分を振り返る
 
予想を超える 衝撃だった
なんてたくさんの
恥ずかしい事 悔やまれること
夢を語ってなんていられない

やってしまったこと
やらずに済ませてしまったことは 
変えられない
どうしよう
取り返しがつけられないなら
せめて 償えたら

誰かに捧げる時間は
私の予定にはなかったはず
でも
きっと つながっている
しっかりと 自分を終えることに
私自身の後始末
どうしてもやらなくちゃ

見つかった課題 
それは人として当たり前のことだった

生きていく時間の中で
同じように 生まれてきた周りの皆の
生きていくことを妨げず
お返しをちゃんとして
傷つけてしまった分は
どこかで 何かで補いたくて
自分が生まれて今までの年月
いやな足跡も残したけど
今 在る者の役目として
できれば他の
生きているもの 生きていないものと一緒に
豊かな実相を積み上げて
そうやって命をまっとうしたい

それが生きている間に
やること
そして生まれたから 
できること
その仕事をすればいい

自分が居なくなり
二度と暮らしていけないなんて 
まだ怖い でも 
ゴールに向かっているとしたら 
希望 でもある

人として精一杯の関りをして
いつか来るその日まで
生きていけばいい

長男にはまだ難しそうだな

編集・削除(編集済: 2024年06月17日 14:07)

孔子 歩く  三浦志郎 6/15

遊説を歩くも虚し

然れども 師 先駆 
時代いまだ遥か背後  
時代 能う限り
師を追随せんとす

宜しく共に歩むべし

編集・削除(未編集)

夏生さん 評へのお礼 香月

フラットアース・シンドローム、お読みいただきありがとうございました。
貴方 と、私 の背景へも想像を巡らせて頂き、ありがとうございます。
逃避へと至る経緯を書くことに、今回思い至らずあの部分だけでしたが、
確かに経緯がある方が物語が広がりますね。次回はそこまで練ってみようと思います。ありがとうございました。

編集・削除(未編集)

舟を漕ぐ  荒木章太郎

自転車を漕ぐ
海岸線の国道沿いを
母はペダルを漕いでいる
闇を背負って漕いでいる
俺を背負って漕いでいる
対向車の波打ち寄せる
ヘッドライトは猛禽類
かける言葉は見つからず
揺れる背中にしがみつく

”深呼吸して力を抜いて
オールを漕ぐよに歌いなさい”

ペダルに合わせて子守唄
雲は流れて星は寄り添う
父のような潮風が
俺の背中を押していた
頭を揺らして舟を漕ぐ
涙で溶けた月を漕ぐ
世界が終わる夢を見る
目覚める頃には海を出る

編集・削除(未編集)

水面月  司 龍之介

立ち止まって
後ろを振り返る
それはでこぼこ道で
人の気配がする

一人で歩いてきたつもりはないが
今となっては孤独にもなりきれず
寂しさはもはや空想の世界
孤独を知る人よ
あなたは今幸せか
そうである事を信じてる

昨日は激しい雨が降って
外の世界が騒がしかった
あの一匹の野良猫は無事だったろうか

俺の歩いた道に降った雨は
希望を隠し幸せを隠し
あたかも世の中は不幸に満ち溢れていると
そう思わせるのだった

しかし永遠の雨などなかった
長く思わせた土砂降りの雨は
いつしか小雨になり
そして雲は王座を明け渡し
昼には太陽が微笑み
夜になり星は瞬いた

俺は立ち止まって
後ろを振り返った
そこには無数の水たまりに映る
無数に輝く水面月

編集・削除(編集済: 2024年06月17日 10:59)
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