第9課 数字の言い方
<スキット>
ランチタイムのお店で
「店員さん、ちょっと来て」
Fu2wu4yuan2, guo4lai2yi2xia4.
服务员,过来一下。
これは私が頼んだ料理じゃないよ。
Zhe4 bu2 shi4 wo3 dian3 de cai4.
这不是我点的菜。
すみません、すみません!
Dui4buqi3, dui4buqi3!
对不起,对不起!
ビール2本で1万円?
Liang3 ping2 pi2jiu3 yi2 wan4 ri4yuan2 ma?
两瓶啤酒一万日元吗?
私のミスです、大変申し訳ありません。
Shi4 wo3 de cuo4, zhen1 dui4buqi!
是我的错,真对不起!
@ 对不起 = (相手に顔向けできない)ごめんなさい
「かまいません」と返すには、Mei2 guan1xi. 没关系。
<今日のフレーズ>
两瓶啤酒一万日元吗? Liang3 ping2 pi2jiu3 yi2 wan4 ri4yuan2 ma?
※名詞述語文:動詞「是」は不要
@两瓶啤酒 = ビール2本
「二」は2とおりあり。
・数量を言う(ものを数える)ときは→「两」
・数をカウントするときや順番を言うとき→「二」
@瓶 は「量詞」:数+量詞+名詞と並べる
一万日元 = 1万円
<数字トレーニング>
yi1一 er4二 san1三 si4四 wu3五 liu4六 qi1七 ba1八 jiu3九 shi2十
shi2yi1十一 er4shiwu3 二十五
<発音>
・jiuはiとuの間にoが隠れている。[jiou]と発音する。
・yi2 wan4 のyiは本来は「第一声yi1」。後ろが「第四声」だと「第二声yi2」と変調する。
・yuan2のyuの音は「ü」:「ウ」の口で「イ」と発音する。
<エクササイズ> 量詞を使った文
「醤油1本300円です」
Yi4 ping2 jiang4you2 san1 bai3 ri4yuan2.
一瓶酱油三百日元。
「パン10個800円です」
Shi2 ge mian4 bao1 ba1 bai3 ri4yuan2.
十个面包八百日元。
<ひとこと>
「かまいません」
Mei2 guan1xi.
没关系。
<ピンイン> 鼻音
nとng
案内 an-nai 案外 ang-ai
nは舌先が上の歯の裏に付く。ngは舌先がどこにも付かない。
an ang
en eng
ian iang
in ing
uan uang
uen ueng
shan1 山 shang1商
fan4 饭 fang4放
wan2 玩 wang2 王
<街角中国語>
pi2dan4 皮蛋 ピータン
jiang4you2 酱油 醤油
cu4 醋 酢
fen3si1 粉丝 はるさめ
liang3 dai4 两袋 2袋
mu4'er3 木耳 きくらげ
「高1男子の母親」カウンセリング
1,はじめに
アドラーギルドの事例検討会で、終結のタイミングを話題にしていただいたことが、二度ほどあります。一つは、神経症クライエントのサイコセラピーでのそれ、いま一つは今回紹介するケース」です。
これまで「目標の一致」についてはたびたび話題にしてきましたが、カウンセリング初期の段階で、解決イメージをしっかり構築していれば、終結の見通しも当然そこから立ってくるというもので、終結のコツというものが独立して存在するわけではないと思います。筆者がこのケースを担当していたのは、カウンセラー養成講座修了直後のことでもあり、ともすれば過保護的なかかわりになりがちでした。このケースでは5回目あたりで一応の見通しが立ったと判断して、「凍結」というおしゃれな終わり方をしたはずなのですが、さて・・・・。
なお守秘義務の関係で、内容の一部を改変し、人名はすべて仮名としてあります。ケースは、アドラーギルド版・フォローアップシートの様式で報告いたします。
2、ケースの紹介
□イニシアル・レポート
カウンセラー:大森 浩
施設:岡山県教育センター相談室
クライエント:広沢涼子(40歳) 主婦
IP:広沢雅康(公立高校1年生)
IPの生年月日:昭和:**年2月23日
同居家族:夫、クライエント、長男(24歳)、長女(27歳)、IP(15歳)
開始日:某年10月1日
状態記述:記述診断:健常、対人問題:親子関係、面接形態:個人
□1回目
IP同伴。主にIPの話を聞く。母親は黙って傍聴していた。
(Subjective Problem) 以下(S)
6月中頃から、朝起きられなくて学校へ行けなくなった。腹や頭が痛かった。病院ではどこも悪くないと言われた。2泊3日の宿泊研修が特につらかった。友人たちのようにとけこめない。高校は自分で決めて入ったのだが、失望した。部活動ではバドミントンをやっていた。これはやりたい。姉も同じ高校の出身なので、「あまり良い学校ではない」と言っていたが、それでも自分はそこへ行った。滑り止めに受けていた私立高校の特別コースのほうが良かったと思う。
姉のすすめで、広島へカウンセリングを受けに行った。「潜在意識に尋ねる」といって音楽を聞かされた。「12歳に災いのもとがある」と言われたが、納得できなかった。
<これからどうするつもり?> 以下カウンセラーの言葉は< >でくくる。
大検コースのある予備校へ行きたい。
<それで?>
予備校へ行くようになっても、はたして通学できるかどうか不安なのです。
<不安というのはどういうことが?>
朝やはり起きられないと思うから。
<中学の頃はどうでした?>
あまり休んだことはない。高校受験の直前に骨折で1か月入院した。
<それでもこの高校に入れたんですね。>
はい。
<担任の先生は何とおっしゃっていますか?>
行く先を決めるまで退学の手続きをとれないと。
<将来は、35歳くらいになったら、何をしていたい?>
── 沈黙。
(Objective problem) 以下(O)
眼鏡をかけている。ひ弱そう。姉の話の時、涙を流した。とめどなく流れるのを手で拭っていた。
(Assesment) 以下(A)
初めのうちは、さっぱり具体的に語らなかったが、広島のカウンセリングのあたりから、かなり雄弁になってきた。姉が重要な場面に出てくる。12歳年上で、彼にとっては相談役だろうか、母親代理だろうか。
体が訴えていることの意味は何だろうか。しばらく体の要求どおりに生きてみてもよいのではないか。
(Planning) 以下(P)
将来の自分をイメージしてもらう。
(Supervisor's Comment) 以下(SVC)
1)やはり将来の希望を、きっちり聞いておけばよかったのではないか。そうすると次回からの見通しが立つ。母親が同席しているのだから、息子が当分ぐずぐずしていても経済的に困らないかどうか確認してみる。親の課題はこれだから。(Tさん)
2)この子をエンカレッジするとしたらどんなことが言えるか。今まで姉を目標にしてきたが、うまくいかなくなってきている。自分で考えてみるよいチャンスではないか。(Hさん)
3)1回目でカウンセリングの方向を示してもよいのではないか。本人を対象とするか、親だけか。これからどうしようかと本人に聞いてみればよい。楽屋ネタをばらしてもよい。(Kさん)
□2回目 10月8日 母親のみ
(S)
ここへ来るよう誘ったが、機嫌が悪くて寝ていた。友だちが遊びにくると言いながら友だちは来なかったので機嫌が悪いのでしょうか。姉(12歳上)は活発な子だった。9歳上の兄もいたが、どちらも年が離れているので、ほとんど一人っ子同然。自分から率先して友だちを作るほうではない。高校になって友だちができなかったのかもしれない。
学校は進学競争がとても激しいと言っていた。男の子らしくどんどん外へ出るようであればいいのに、料理が好きです。この前も春巻を作ってくれた。みんなで食べておいしかった。風呂のそうじなども、機嫌が良ければしてくれる。
先週、帰りの車の中で話した。35歳になったら、「それまでに戦争があろうから、生き残れるためには英語を勉強しておこう。何でも食べて生きていけるようにしておきたい」と言っていた。*
<それで?>
なんて馬鹿なことを言うのかと笑った。*
<他の受けとめ方はなかったでしょうか?>
どんな?
<生き残れるための準備をするなんて、すごいとか。>
まさか・・・・(笑い)
(O)
少し小太りのたくましそうな女性。IPを賞めたりクライエントを勇気づけるとそのたびに涙を流した。ユーモラスな場面では笑うようになった。
(A)
料理が好きと聞いて、これはいけると思った。不登校児の男の子は料理の好きな人が多いと野田先生から聞いていた。家事手伝いもよくするので、そういうプラス面、家族に貢献している面に注目していくのがいいのではないか。学校へ行かなくても安心して家に居られるように配慮してはどうか。今まで、IPの失敗を咎めていたらしい。学校へ行かないで家にいるのはのは目障りだと思っていたらしいので、どこを改善すればいいか見えてきた。
夕飯を手伝ってもらうか任せるかしてはどうか。せめて、味だけでもみてもらうように。「おかげで助かったよ」と言える材料をしっかりさがしてもらう。
(P)
IPに、もっと家の中でできることをしてもらう。クライエントのIPに対する評価が変わってくるのではないか。
(SVC)
1)最悪の事態は避けられる子ではないか。(Hさん)
2)誕生順位からライフスタイルをゲッシングすると、「ベイビー」。(Kさん)
3)* を受けてカウンセラーは、「で、お母さんは何とおっしゃったんですか?」と聞けばいい。(Hさん)
4)親の言った具体的なやりとりを聞き出すこと。そうすると、親子のコミュニケーションのティーチインに持っていける。ここまでくると、目標の一致をしておくとよい。子どもが家の中で貢献できる仕事を持つのはよい。親は、子が料理をすることの意味をわかっているのか?(Kさん)
5)「とてもいい子だ」としっかり子を勇気づけると、親も納得できる方向性が出てくるのではないか。取り決めなしに学校の話をせず家庭内のかかわりが話せるのは不思議。家族カウンセリングらしくなっている。普通は、この線まで導くのに苦慮する。(Kさん)
・・・つづく
91 <店が普段何時からやっているかをたずねるには>
#キーフレーズ
What time do they usually open ?
#データベース
営業時間について
We close at 4:30 p.m. 午後4時30分に閉店します。
We are open from 8:00 a.m. to 6:00 p.m. 午前8時から午後6時まで営業しています。
#練習
Do you know what time they usually open ?
I don't know what time they usually open.
今日は何時に開くんですか? What time do you open today ?
12時に開きます。 We open at 12:00 o'clock.
92 <「デザートには何がいいか」をたずねるには>
#キーフレーズ
What should I get for dessert ?
@ What should I ~?で助言を求める
shouldは必ずしも「べき」のような固いイメージではない。
#データベース
What should I bring to the barbecue ? バーベキューに私は何を持って行けばいい?
What should I do after graduation ? 卒業したら何をすべきなんだろう?
#練習
What should I bring to the party ?
I think you should bring cotton candy.
What should I be ... should I be an actor or a dancer ?
You should be a comedian.
How should I say this ? You should try the Weekly Review Test.
93<彼は私に新しいプロジェクトチームに加わってほしいんです」と言うには>
#キーフレーズ
He wants me to join his new project team.
「~が~にしてほしがっている」と報告するような状況
The producer wants me to dance.
#データベース
I didn't want him to know until Valentine's Day.
バレンタインデーまでは彼に知られたくなかった。
Do you want me to bring anything ? 私に何か持ってきてほしい?
#応用
友人がケガをして現れた。どうしてほしいのか聞いてみよう。
Do you want me to scratch your back ? 背中を搔いてほしいですか?
直接聞くには
What do you want me to do ? どうしてほしいですか?
I want you to dance ! 踊ってほしいです。
94 <「私どうしたらいいと思う?」と助言を求めるには>
#キーフレーズ
What do you think I should do ?
#練習
@What should I wear ?
↓
What do you think I should wear ?
@Who should I trust ?
↓
Who do you think I should trust ?
#データベース
アドバイスに関する表現
I'm not sure what to do next.
次にどうしたらいいかわからない。(確信できない、自信がない)
If I were you, I would take a few deep breaths.
私が君だったら2,3回深呼吸をするよ。
#応用:アドバイスをしてあげるほうの言い方
信じていた人に裏切られて、What do you think I should do ?
アドバイス=If I were you, I would eat a lot.
引っ越そうと思っていて、I'm not sure if I should rent an apartment or buy an apartment.
アドバイス=If I were you, I would buy it.
95 <「あなたに相談して正解だった」と言うには>
#キーフレーズ
You were the right person to speak to !
(あなたはふさわしい人でした。相談する相手として。)
#応用
You were the right person to do this show. あなたはこの番組にふさわしい人だ。
#反対は
She chose the wrong person to marry. 彼女は結婚相手にふさわしくない人を選んだ。
#データベース
Well, you have come to the right place. それならぴったりの場所に来たね。
This isn't the right time. 今はまずいでしょう。
@ rigjt time = ふさわしいタイミング
#練習
I was in the right place at the right time.
私はしかるべき場所にしかるべきタイミングでいた。
↓
反対は
I was in the wrong place at the wrong time.
3,考察
1)カウンセリングの技術
カウンセリングの技術をかなり理解してきた時期でもあり、スムーズに展開しているように思えた。特に、「開いた質問」を多用していて、たくさんの情報を得ているので、カウンセラーが解釈投与しなくても、クライエント自身で気づくことが多かったようです。そのおかげで1回の面接で終結できたのかもしれません(手前味噌です)。
面接形態は、集団カウンセリングでありながら、担任が傍聴者に徹したので、結果として個人カウンセリングの形態となった。せっかく3人同席しているのであるから、家庭での親子コミュニケーションのロールプレイなども実施できたと、あとから思いました。
2)目標の一致
目標の一致をはかるためのカウンセラーの発言としては、CO⑱「ごもっともです。これからどうしましょう」が該当すると思います。しかし、ここではタイミングが合わず、沈黙という抵抗に遭っています。ここよりもむしろ、CO⑫「ほんとは、お母さんと仲良くしたのではないでしょうか?」~(認識反射)「そういえば、時には肩をもんでくれることもあるんですよ」で認識反射が出ているし、それまでの険しかった表情がなごんで、話題が前向きに変化しています。ここを「てこの支点」にして、解決構成の目標を設定していけば、あるいは別の展開になったかもしれません。目標一致の重要性をほんとに理解して実践できるようになるのは、もっとのちのことで、この時期はまだそれが曖昧なままで動いていたようです。
3)その後のIPとの関係
筆者はIPのクラスで「現代社会」を担当しています。母親カウンセリングから少しあとに、授業後にIPから質問されました。
IP:先生、親が一々口うるさく言うのには、どうしたらいい?
CO:例えば、どんなこと?
IP:酒を飲んで帰ってきて、「出かける前に頼んでおいたことをしていない」とか。
CO:うーん。できたら、放課後、相談室に僕をたずねてきてくれないかな?
放課後、教育相談室で改めて話を聞き直しました。IPが語ったことは次のとおりです。
父親が病死して、母1人で3人の子どもの養育は手に余るので、小学校の間、自分は施設に預けられていた。中学に入ると母親に引き取られて、それまでずっと親と一緒にいた妹と、母親の“男”(いい人だとIPは言う)と同居するようになった。一応母子家庭なので、生活保護をもらっている。母親はパートの仕事に出ているが、酒を飲んで帰ってくる。体に悪いので「そんなに飲むな」と言うと、「ほっといてくれ」とくる。あまり飲むので、ときどき酒のビンを隠しておく。それでも見つけ出しては飲んでいる。「朝頼んでおいたゴミを出していない」とか、「妹の面倒を見ない」とか、口うるさくてたまらない。兄はすでに独立して職人になっている。ただし、IPによれば、独立と言うにはあまりにお粗末で、アパートの敷金や旅行の費用、小遣いまで母親に出してもらっている。母親は渋々ながらも求めれれば応じているとのこと。
これを聞いて、あの母親はカウンセリングでの助言を実行していないことが判明しました。まさしく野田先生のコメントのとおりで、まんまと母親の策略に乗せられていました。特に、《SVC》③が命中です。カウンセリングの成果がまるで現れていません。カウンセリング場面で母親が語る子どもは、母親の頭の中の子どもで、実在する子どもではないのです。つれあいの“男”がいることなど言っていませんでした。ただ「子どもから暴力を受ける哀れな母親」だと被害者顔をするのに対して、カウンセラーは安易な勇気づけをして、良い気分で帰してしまったのです。
そこで、原点に返って考え直しました。
───(?)──→
親 子
←──(暴力)──
親の何らかの言動に反応して子どもは暴力という手段で応じているということであれば、改善には、親の「(?)」の部分を改めるか、あるいは子どもの「(暴力)に変わる代替案」を見つけるかということになります。母親と再度面接することはたぶんありえないでしょうが、さいわい子どもの側と会えました。
母親は足も少し不自由で、IPはそれを気づかっていて、例えば、保護者懇談会などに「無理して来なくていい」と言っているそうです。なかなか親孝行です。《SVC》③で言われているとおり、IPはかなり我慢していて、ムチャクチャしているのは、ほんとに母親のほうでした。
その後、IPとは授業以外でも、接触する機会が増えて、放課後などには教育相談室をよく訪れるようになりました。そこでの談話を通して、しだいに母親との感情的な対立を避ける選択ができるようになり、少し距離を置いて母親を見ることができるようになりました。
ところが、3年生の秋になって、突然ものすごい剣幕で相談室へやって来ました。「先生、家を出るぞ!」と。母親の酒癖がますますひどくなり、今はほとんどアル中状態で、暴れるし、勉強どころではない。忠告しても一向に聞き入れないし、義父も手を焼く状態で、義父の勤務する会社の寮へ入れてもらうことになった。食事は会社の食堂を使わせてもらえる。このことでは義父が大変親身になって助けてくれた。ただ、無料でというわけにいかないので、冬休みなどに会社の仕事を手伝わせてもらうことで、いくらかでも埋め合わせしたい。
と、こうしてIPは親の家を出て自立しました。担任は好きでないので、内緒にしていると言います。「それでも何かのときには担任の世話になるんでは?」と筆者が言うと、「それなら副担任に事情を話しておく」ということになりました。担任は、必要以上に家庭の様子を根掘り葉掘り聞くし、自分の考えを一方的に押しつけるから、話す気になれないとか。会社の繁忙期には、やむをえず学校を10日間欠席して(もちろん担任には無断で)仕事をして、義父への義理を果たしました。
卒業までの半年間、ほとんど毎日相談室へやって来て、「ここへ来ると気持ちが落ち着く」と言ってリラックスしていました。当時の相談室は生徒が昼食のために来室できるようにしていて、カーペット敷きの室内のあちこちに座り込んで、弁当や購買で購入したパンなどを持参して、談笑しながら食していました。スタッフの席の足下にも誰かが座り込んで弁当を食べています。食後は、生徒などの寄付による相談室備え付けのマンガを読んだり、囲碁や将棋をして午後の授業の開始までを過ごします。アドラーギルドの「アザラシ村」の岡工版です。IPは面倒見のいい子で、下級生の相談にも乗るようになりました。カウンセラーのお株を奪われたみたいです。野田先生が、「思春期の良いところは、仲間が仲間を助けること」とおっしゃっていましたが、そのナマを相談室で見ることができました。ある日、下級生の数人がヒソヒソと、どうやら自転車窃盗のようなことを企んでいるようでした。それを耳にした彼は、そっと近づいて、「オマエラのすることに一々ケチをつける気はないが、盗まれたほうの身にもなってみろよ。どんだけ困るか」とたしなめます。言われたほうはグーの根も出なくて、しんみり納得していました。
《SVC》②のとおりになりました。野田先生の慧眼に感動するばかりです。筆者は、クライエントの「かわいそうな私」に乗せられないためのポイントをまとめました。
1)暴力を生む親子コミュニケーションの構造を理解しておくこと。
2)アドラー心理学基本前提の「認知論(仮想論)」を忘れないこと。言葉は「地図」であって現場でない。一方の言い分を鵜呑みにしない。刑事ドラマではないが、「必ずウラをとる」ことか。
4,謝辞
野田先生のまるで「予言」のようなコメントに驚き、感動いたしました。また、いつものようにアドラーギルドの事例検討会ご参加の方々からは、温かい勇気づけと適切な助言をいただきまして、厚くお礼申し上げます。
さらに、岡山工業高校教育相談室のスタッフ各位には、執務の妨害にもなりかねない、来室者の言動に寛大に接してくださいまして、おかげさまで「岡工版」アザラシ村の建設が実現しました。生徒数千人を超える大規模校にあっても、心身ともにくつろげるスペースが存在することで、来室者たちは自分であるいは仲間によってたくさんの勇気をもらい、エネルギー満タンにして、またそれぞれのクラスに戻っていきます。形式的にきちんとしたカウンセリング形態をとらなくても、休憩時間、昼休み、放課後などに、何気なく相談室に立ち寄って、スタッフ教師と何気なく会話を交わすうちに、自分の抱いていた問題がいつの間にか解決しているというような場面に常々接していると、アドラー心理学の底力のようなものを見出した思いがいたします。スタッフの方々にも心からお礼を申し上げます。
5,参考文献
○野田俊作監修(1986)、実践カウンセリング、ヒューマンギルド出版部(絶版)
○ハリー・H・ヴォーラス&ラリー・ブレントロ著、菊池正彦役(1988)、若者が若者を変える、東京創元社
○片山交右著(1992)、心に庭にバクを飼う方法、アニマ2001
完
家庭内暴力をめぐるケースから
1,はじめに
このケースの特徴は、はじめに母親とのカウンセリングがあり、後に子どもとの授業や教育相談室でのつきあいがあり、親子両方に関われたことです。母親との1回限りのカウンセリングは、滑らかに展開したかに見えながら、実は失敗していたことが、後でIPが語ることから判明しました。それにもかかわらず、その後、IPと深く関わることができたおかげで、結果としては、母親でなくIPを援助することになりました。このころ相談室はいわゆる“アザラシ村”になりつつありました。アザラシ村は当時のアドラーギルド(大阪)につけられたアダナです。アドラーギルドには大研修室という大部屋があって、そこで研修や講座や事例検討かなどが開かれますが、行事がない空いた時間には、何気なくふらっと若者などが立ち寄って、くつろいでいきます。別に相談事があるわけでもなく、ただ、ごろごろと一定の時間くつろぐと勝手に帰っていきます。この「ごろごろ」に治療効果があることから、いつしかここは“アザラシ村”と呼ばれるようになりました。
“アザラシ村化”が進むにつれて教育相談室はとても治療的・援助的空間となり、多くの生徒や教師が来室するようになりました。“アザラシ村化”の発端は、私が授業を担当する土木科1年生の男子生徒2名が休憩時間に私をたずねてくるようになったことです。大した用事もないのに、ただ世間話をしに来ます。そのうち短い10分間の休憩だけでなく、お昼休みにも必ず来室するようになりました。私はお昼を食べながら、彼らと談笑します。あるとき教頭さんが用事があって来室されて、その様子をご覧になりました。彼らに「どうしてここへ?」とたずねると、彼らは即「大森先生のおっかけです」と答えました。教頭さんはにこやかに退室していかれました。そのうち、土木科に限らず、私が授業に行く他の科からも徐々に来室する生徒が増えていきました。このケースはその“アザラシ村”の果たす役割が大きいです。
ケースに関しては、プライバシー保護のため、内容を可能な限り改変し、登場人物名はすべて仮名(かめい)にしてあります。
2,ケースの記録
□イニシャル・レポート
☆クライエント:竹中米子
49歳、無職。夫の死後、生活保護を受けながら3人の子どもを育てる。あとでIPの話から、「ボーイフレンド」がいることが判明した。
☆IP:竹中千春
母親とのカウンセリングのとき16歳。高校1年生。3~6歳まで施設へ預けられていた。
☆他のきょうだい
兄(+8歳)
親戚へ預けられていた。現在、建具師として独立。
妹(-3歳)
よそへ預けられることなく、ずっと母親と同居。
☆面接形態:集団カウンセリング(母親、担任教師)
□Subjetive Program
クライエント(以下“CL”):家で、私に暴力をふるい、妹をいじめる。家の中のものを壊したり、私を叩いたりする。妹をいじめるので、私がかばって外へ連れ出す。暴力が出たのは息子(千春)が中1のときから。「親らしいことを何をしたか。復讐してやる!」と言う。「親子の縁を切ったろうか」とも言う。
カウンセラー①(以下“CO”):一番最近、どんなことがありましたか?
CL:1週間ほど前、「ビデオデッキを買え」と言うので、「一度に支払うのは無理、知り合いの店へ分割払いで頼もうか」と答えたら、「どこまで腹が腐っているのか!」と、私の胸を激しく叩いた。そのため、骨にひびが入るほど負傷した(アザを見せる)。このとき、担任の先生に相談しました。担任の先生から、ここを紹介されました。ほんとに正気の沙汰とは思えない(と、かなり激昂)。
CO②:復讐というのは穏やかでないと思いますが、何か思い当たることがありますか?
CL:施設へ預けていたので、母親の愛情が薄かったのではないかと思います。後ろめたい気がして、一生懸命親らしいことをしようと思うのですが、逆効果みたいです。
CO③:後ろめたいのは、子どもに?世間に?
CL:両方あります。
CO④:きょうだいの仲はどうですか?
CL:兄には一目置いているようです。妹とは仲が悪い。親としては公平に扱っているつもりですが……。
CO⑤:それはそうでしょうね。3人のうち、施設に預けられたのは?
CL:千春だけです。兄も一時親戚へ預けたことがあります。
CO⑥:お兄ちゃんもよそへ預けられたが、それも親戚で、妹さんはずっとお母さんと一緒。そうすると、千春君はどんな思いを抱くでしょうか?
CL:ひがんでも不思議はないですね。そう言えば、胸を叩いたあと、決まり悪そうに、「許してはもらえんだろうなー」と言ってきました。
CO⑦:で、何とおっしゃいました?
CL:何よ、今さら!と言いました。
CO⑧:その言い方、今はどう思われますか?
CL:うーん(笑い)。
CO⑨:他にどんな言い方が考えられますか?
CL:うーん、思いつきません。
CO⑩:「謝りに来てくれたのね。お母さん嬉しいわ」とは言えませんか?
CL:まさか(笑)。「何よ、親を叩くなんて」とも言いました。
CO⑪:「お母さんは叩かれるのはイヤ」とは言えませんか?
CL:はー?言えませんよ、そんな。
CO⑫:もしかしたらお母さんと仲良くしたいなんてことはないでしょうか?
CL:(認識反射)あ、そう言えば、時には肩をもんでくれることもあるんですよ。
CO⑬:そういうこともありますか。
CL:(表情がかなりなごんで)あまりないのですが、それでも、担任の先生が面白いとか、部活が楽しいとか話してくれます。
CO⑭:そういうとき、どんなふうにして聞いていますか?
CL:あまり本気で聞いていませんね。
CO⑮:できたら、そういうときはしっかりと聞いてあげませんか。さて、では暴れたときはどうすればいいでしょうか?
CL:まず、逃げているのですが…
CO⑯:良い方法だと思いますよ。
CL:こちらにもいくらか、叩かれても仕方ないという思いがあったと思います。
CO⑰:お母さんは、ご自分を大切になさらないと…。
CL:(しんみりと)親だから何とかしようという思いが強くて、叩かれても無理強いしてしまうんですね。
CO⑱:ごもっともです。で、これからどうしましょう。
CL:……。
CO⑲:お母さんが決めて押しつけるのでなく、息子さんに決めてもらいませんか?
CL:それなら楽なんですが、この前なんか、「この家は俺でもっているんだ」と大きなことを言っていました。
CO⑳:で、何とおっしゃいました?
CL:何を馬鹿なことを!と言いました(大笑い)。
CO㉑:「ほんとねー、頼りにしてるよ」とは言えませんか?
CL:(笑)今度からはそう言います。先生、「親子の縁を切る」と言ったらどうしましょう?
CO㉒:「そしたら、どうなるんだろうね?」とだけおっしゃるのはどうでしょうか?学費や食事の心配があるので、まあ、本心ではないのではありませんか?
CL:そうですね。やってみましょう。
□Objective problem
生傷の痕が痛々しい。
□Assesment
子どもがひがんでいるのは、親の責任ではないと、親を勇気づけた上で、子ども側の思い込みを一度理解してみるように提案する。3人のきょうだいのうち、IPだけが施設を経験していて、これは親を責める手段に使える。妹を嫌うのも納得できる。1日24時間暴れ回っているわけではなく、穏やかな会話のできるときもあるのだから、そういうときしっかり関わって、乱暴を始めたら逃げると言う方針でうまくいくのではないか。IPとは授業で面識があり、関係も良いので、将来直接IPと会う機会もあるかもしれない。もっとも、こちらからは動かないが。
□Planning
当分、助言を実行して、様子を見るとのことで、しばらく凍結する。
□Supervisor's Comment
1)親子両方に会えるとカウンセリングは早い。ただし、親が子どもを引っ張ってきては駄目。復讐期の子どもは手間がかかる。学校ではニコニコしていても、家に帰ると怒っているかもしれない。
2)このケースは、母親を気分良くして帰しているが、拒食や家庭内暴力の母には厳しく悔い改めてもらわないといけない。こういう親は性格は強いから、永続する効果を望むなら、初回で顔面パンチをくらわすのがいい。良い気分では帰さないこと。暴力をふるう親の子は、明るく元気で自分は絶対正しいと思っている。子どもが高校以上なら、家から出すのも手。育児途中なら子どもとのコミュニケーションを変えてもらう。
3)家庭内暴力児は辛抱している。手加減している。親はそれを知らないから気づいてもらう。メチャクチャをしているのは親のほうだから。(以上すべて野田俊作先生のコメント)
・・・・・つづく