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編集・削除(編集済: 2024年09月10日 18:37)

軍隊・内務の暴力  上田一眞

その1

旧日本陸軍における
平時の営舎内居住の単位である
内務班は
ある種の〈狂気〉に支配されていた
最前線内務も同じで
古参(年)兵がふるう初年(新)兵に対する
〈暴力〉は
看過できぬ異常なものがあった

連隊内では
絶対的な支配者である将校も
部隊を維持して行くため
これを放置
許しがたいことだが
部隊内の不満のガス抜きに
大いに利用していた


その2

私の父は赤紙を釜山で受け取り
応召地も同地であったが
配属されたのは
北鮮の豆満江(とまんこう)陣地だった

寒さの厳しい地方であった故か
陣地の部隊は
新潟で編成され
主に東北の出身者で占められていた

農村出身者が大半の部隊
その蝟集の只中に 一人
異郷の都会人が入って来たのだから
いいカモだ
狙い撃ちにあって
古参兵から徹頭徹尾イビられた

父にとっては不幸なスタートだった
ただ そのことを除外しても
軍隊は異常な世界だった

たとえば
「官給品の検査」と称するものがあった
針を一本でも紛失すると
大ごとで

 畏(かしこ)くも
 天皇陛下から下賜されたものを
 失くすとは何ごとか
 貴様 ぶったるんどるぞ!

と上靴で殴りつけられた
しかも 常に“連帯責任”を問われ
一人の不始末は
同じ班の初年兵全員で責任を負わされ
共に殴られた

父と同期入営の豊川出身のある初年兵は
夜ごとのいじめに耐えきれず
脱走を試みた
しかし果たせず
河も凍る厳冬の陣地で 
裸に剥かれて営舎から放り出され
凍死した
脱走は重営倉行き
かつ銃殺刑に該当する重罪ではあるが
憲兵の捜査はお座なりなもので
部隊内でもみ消された

また ソ満国境の豆満江河畔で
馬賊と交戦したとき
ある古参兵は
味方から背中を撃たれ 死亡した
戦闘中のどさくさに紛れた事件だが
やられた兵は札つきのワルで
理不尽かつ陰湿
皆から蛇蝎のごとく嫌われていた
当該事件も部隊内で処理され
闇から闇に葬り去られた

将校が兵を犠牲にすることを
厭わなかったように
兵はまた兵をぼろクズのように扱った
これら〈非人間性〉は
夙(つと)に知られた旧日本軍の悪弊であり
陸軍・海軍を問わず共通して持つ
牢固とした体質だった


その3

精神力を鍛えることを名目にして
手荒なことをしたのは
何も旧日本軍だけではない

スタンリー・キューブリックの映画作品
『フルメタル・ジャケット』に
描かれているが
米軍(映画では海兵隊)でも同様だ
戦争を遂行するには
普通の精神では保たないから
訓練所で新兵を狂人に仕立て直し
殺人マシーンをつくる

異常な精神の状態を作らないと
作戦の遂行 つまり〈ころし〉はできない 
当たり前だが
軍隊とはそういうところなのだ
そして結果として
〈ころし〉を目的にした集団には
常に〈精神の荒廃〉がついて廻る

軍・軍隊が〈狂気〉の集団であることに
洋の東西や
時代の新旧は
問わないもののようだ

また 平時 戦時の別もない
沖縄での
三人の黒人米兵による少女暴行事件など
〈精神の荒廃〉が引き起こしたとしか
考えられない
いたい気な少女を凌辱するなど
言語道断
日本人を愚弄した酷い所業だ


その4

確かに人の心には闇があって
〈暴力〉と〈性〉への衝動が潜んでいる
これらはラディカルな欲求であるため
人は御しきれないで来たし
歴史は そうした
欲求の上に成り立っている

否定はできないし するつもりもない
だが
安易にこれを是認し
戦前を懐古したいがために また
国粋主義や軍国日本を礼賛せんがために
むやみに旧軍を賛美して
内包した〈狂気〉を忘れては
やはり駄目だ

南京事件を引き起こした者
一人ひとりは
弱く心優しき人だったといわれる
それがなぜ?

私は思料する
内務班の〈暴力〉を培った
〈おぞましきもの〉と同根のものが
大陸で牙を剥き
支那人(*)をチャンコロと蔑視し
無辜の民を虐殺したのではないか
集団の〈共同幻想〉なるものの発露が
悪しき行為を
暴発させたのではないか
  
この痛恨の大虐殺を起こした
〈おぞましきもの〉つまり〈狂気〉を
日本民族が
等しく内在させていることを
私たちは
決して忘れてはなるまい

南京事件は1937年12月に起きた
僅か86年前の出来事だ





*支那人=中国人 戦前の一般的呼称


[参考]
 内務班の実態は
 野間宏の小説『真空地帯』に詳しい

編集・削除(編集済: 2024年02月10日 16:15)

妻の夢が聴こえた  荒木章太郎

毎晩妻に
背中を向けて
眠るのは
海象である
醜い牙を
見せたくないから
最近牙の重さに
体が耐えられなくて
寝返りができなくなった

ある晩背中で流れる
君の寝息に耳傾ける
真夜中の水族館で
迷子で泣いてる夢が聴こえた
自分冴えよければよいと
必死に伸びるそんな牙は
抜こうと思った

編集・削除(未編集)

感想と評 ◎1月30日(火)~2月1日(木)ご投稿分  滝本政博


一生懸命に読みましたが、見当外れだと感じるところがあればスルーしてください。
よろしくお願いいたします。


「能登に降る雪」 小林大鬼さん  1/30日

被災地の厳しい状況と、それに追い打ちをかける冬の天候を伝え、深い悲しみを訴えます。政府の対応の遅さを嘆いているようにも感じます。
リズムのよい詩で、「る」「まま」の繰り返しがとても効いています。
特に、「雪は降る」の繰り返しは、「る」が絵画(視覚)的要素を感じさせ。雪が舞っているような、効果を上げています。
行分けに難があると感じました。気になったのはこの点のみです。佳作とします。
多分、縦書きに直すとわかりやすいと思うのですが。
以下、私ならこうするという行間の一例です。

雪は降る雪は降る雪は降る
罅割れた能登に雪は降る

元旦のあの日から
能登の時間は止まったまま

瓦礫の道も焼け跡も
深く冷たく罅割れたまま

悲しみの雪は降り積もる


雪は降る雪は降る雪は降る
閉ざされた能登に雪は降る

静まり返る被災地は
置き去りにされたまま

人々の心も距離も
暗く重く閉ざされたまま

悲しみの雪は降り注ぐ


雪は降る雪は降る雪は降る
過ぎ去りし能登に雪は降る

数多の能登の被災者は
片隅に取り残されたまま

過ぎ去りし日々を
思い出せぬまま

悲しみの雪は降りしきる


雪は降る雪は降る雪は降る

希望の兆しは見えぬまま
被災地の声も思いも届かぬまま

懐かしき能登は
記憶の彼方に遠ざかる


「鬩ぎ合ひ」 積 緋露雪さん  1月30日

SNSにおける炎上や、人を自死にまで追いやるヘイトの実態、鬩ぎ合いについての考察です。
冷静な判断を下せる<鳥瞰するもの>がいなくなってしまって、相手を追い詰め冷酷な死にまでおいやる恐怖のシステムが解き明かされます。
当事者同士のせめぎあいが部外者も巻き込み、いつか首謀者不在のまま罵詈雑言が飛びかい、そこに野次馬が加わり、繊細な心の持ち主は自ら命を絶つ。

これは行分けを無視して繋げて読めば一つの散文、論文として読めてしまします。難しい問題ですが、詩とは何かを今一度考えることをお勧めします。詩に向いている仕事と、散文に向いている仕事があります。また書き方によっても詩に接近することができるのではと、思います。入沢康夫さんの言葉に「詩は述べない。詩は問いかけ、詩は求める。詩は探索し、詩は発信する」というのがございます。極端な発言かもしれませんが、参考になればと思います。

最後の一行である
「命短し恋せよ乙女。」
はいいですね。この飛躍があったので、この文章が詩になった、とも言えます。



「手を伸ばしてみたくて」 喜太郎さん  1月30日

片思いの胸苦しさが繊細に綴られています。
「手を伸ばしてみたくて」はいいタイトルですね。
好きな人に話しかける事への逡巡が書かれています。
遠いよ……
と、ためらう。
胸の内を書くことで一遍の詩が出来るのですから、恋は偉大であります。
親しみやすく、誰もが一度は通ったような共感をよぶ作品だと思いますが、
独自の感受力や表現を紛れ込ますことができたら、さらに深みのある作品になったと思います。


「愉快犯」 大杉 司さん  2月1日

最近、世間を騒がせたニュースを題材にしているのかな。
私はテレビを見ないし新聞も読まない(自慢する事ではありませんね)から、このテキストのみでの評価となりますが、いま病室で亡くなろうとしている指名手配犯の心理が上手く描かれていると思いました。類推して書いたのだとしたら、これは才能だと感心しますし、一つの創作物であり、想像力の勝利といえるでしょう。四行一連で進んでゆく記述で状況や犯罪者の現在の心理や作者の考えまでが描かれています。
参考なるのかわかりませんが、小説ではトルーマン・カポーティの「冷血」を筆頭に日本では佐木隆三など、実在の犯罪を徹底的に取材した傑作があります。寡聞にして、日本の詩でそういう形のものがあるのかどうかはしりませんが、書かれたとしたら新分野になるのかもしれません。
犯罪心理をさらに踏み込んで書けていたらと思います。佳作一歩手前とします。


「フィルム ノワール」 鯖詰缶太郎さん  2月1日

ノワールをググってみると、フランス語で黒という意味。 暗黒小説、フィルム・ノワール - 小説、映画の一分野。 人間の悪意や差別、暴力などを描き出している。 闇社会を題材にとった、あるいは犯罪者の視点から書かれたものが多い。とありました。ジャンルとしてのノワールを私達は楽しんできました。
この詩は、ユーモラスで、とても洒落た短詩だと思います。モノローグで書かれるのは、この手の物の常套手段でもありますし、ハードボイルドのパロディのような感触もあります。
詩を読むことは、作者の呼吸、息遣いを感じることです。この詩は改行や語句と語句の間のスペースの使い方がうまくて、そのリズムを楽しめます。
タイトルが「フィルム ノワール」で、書き出しが「雨が強いなあ」ですが、昔の映画はフィルム上映であり、何度も上映され古くなったフィルムは、ザーと傷が映り、画面に雨が降ると言っていたのを思い出しました。今はデジタルなのでそんなことはなく、懐かしい思い出です。



「寝ない子誰だ」  紫陽花さん  2月1日

明るい海と昼でも薄暗い神社の森という、前半の風景描写がよく書けていると思いました。子供であった作者の心理もよく伝わります。薄暗がりの森や神社が森閑としていて、子供は怖くなりおばあちゃんの手をぎゅっと握ります。

三連目は転調部分で一つの秘密が明かされます。
 <おばあちゃんのおばあちゃんの
  そのまたおばあちゃんは
  見たという
  夜の森で羽を広げると
  大人の男の人ほどの
  大きなふくろうを>
とても奇異で怖いイメージです。
 <夜寝ない子は美味しいらしい。>
この行も怖いですね。
夜行性のふくろうの眼が暗闇の中で光っているのを感じます。
民話のような感触です。

四連目も再び転調します。私は夜に自分の子供にこのお話をして寝かしつけています。子供はこういう少し怖いお話が好きだったりしますね。

最終連
 <寝ない子誰だ>
自分の子にだけでなく、子供全般に呼び掛けているようなおもむきで面白いです。
佳作とします。

編集・削除(未編集)

猫の仕事 紫陽花

私 野良猫は捕まった
にこにこしてる男に
弱ってるところを捕まった

あの日は少し油断していた
暖かい日が続いて
私に石を投げてくる
子供もいなくて
つい知らない男から
優しい顔をした男から
飲み物をもらった
どうやらそれに毒が
入っていたよう
しばらく経つと
私は動けなくなった
そして私は捕まった

この間の優しい顔した男ではない
その男は私に働きなさいと言った

私は野良猫だけど
野良猫は野原で
みなしご子猫に餌の取り方
寝床の見つけ方なんかを
教えてなんとなく
だれかと暮らしてた
でもそれじゃいけないらしい

仕事をしないといけない
仕事っていうのは
お金になるってこと
そうね野原で自給自足しても
お金にならない
そんな話を猫カフェゆるりの
おじさん店長が私の耳を桜カットに
しながらお経のように唱えている

それから私は来る日も来る日も
お客様に気に入られるため
猫らしくみんなの好きな
猫像を研究し
遂に最近出た猫検定も受け
時給を上げるべく勉強もしている

最近の猫の仕事は大変だ

編集・削除(編集済: 2024年02月08日 19:03)

三浦様、詩への評のお礼です  鯖詰缶太郎

作品を読んでいただきましてありがとうございます。
一か八かで書いたような作品になってしまいました。
正直、冷静になって地に足をつけた方が良かったような気もしました。
誰が読んでも納得のいくものを熟考するべきじゃないだろうかと思いました。
また詩を書いてみます。
本当にありがとうございます。

編集・削除(未編集)

三浦様 評のお礼 詩詠犬

今回は、なんと評されるか、ちょっとハラハラしていました。
実は、少し辛いことがあり、塞ぎがちになっている自分を鼓舞しようとつくった詩です。
この詩をつくったことで、心が多少軽くなったような気がします。また、甘めでも佳作をいただだき、恐縮です。
これからも、何卒よろしくお願いいたします。

編集・削除(未編集)

三浦志郎様  『ぼくはキミの靴』の評の御礼  ベル

三浦様、『ぼくはキミの靴』の評をありがとうございました。ある日、椅子に腰掛けて下を見ると、履いている靴に目が留まりました。この靴に色んなところ、連れていってもらってるんだよなぁ。そんな風に考えたら、もしかしたら、自分の意志ではなく靴に心があって、勝手に運ばれてるんじゃ、などと空想をはじめて、昔のアニメで、「ど根性ガエル」を思い出しました。ピョン吉くんだったかと思います。そんな妄想、空想が、昔のアニメが重なって、今回の作品が生まれました。
また、新しい詩が書けたら投稿します。いつも、つたない作品にありがとうございます。

編集・削除(未編集)

三浦志郎様  御礼  静間安夫

今回も私の詩に丁寧なご感想を頂き、誠にありがとうございます。佳作
との評をくださり、とても励みになります。
仰るように、能登半島地震の重く厳しい現実を報道で知り
今回の詩を書きました。
今後とも、どうかよろしくお願い致します。

編集・削除(未編集)

雨音様 『砂』の評の御礼 ベル

雨音様、『砂』の評をありがとうございました。今回の作品は、思い出は永遠なのか、それとも遠い彼方へ消えてゆくものなのか、そんなことを思いながら、大切な人の記憶にあればいいなあと思いながら書きました。
また、新しい詩が書けたら投稿します。お忙しい中、いつもありがとうございます。

編集・削除(未編集)

三浦様、評のお礼  理蝶

三浦様、いつも評をしていただきありがとうございます。
最近は詩全体を通してのまとまりを意識して作っておりますので、よくまとまっているという評価はとてもありがたいです。
まとまりを意識しすぎると、シンプルすぎて味気ない詩になってしまいかねないので塩梅が難しいところですね。
最終連に関して申し上げると、『僕』が浮かべた祈りはいわば、祈りに対する祈りであって向かうべき場所を持ちません。
妨げられていた祈りが解き放たれたことで、『僕』の祈りは一つ役目を終えたことになります。それを示すために風船が割れたという描写にしました。途中の表現がシンプルな分、最終連で良い意味での引っかかりを作れたらなという意図も少しありました。
インパクトがあると言っていただけてとても嬉しいです。

佳作の評価もありがとうございます。
これからも試行錯誤してより良い詩が書けるように頑張ります。ありがとうございました。

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