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編集・削除(編集済: 2024年09月10日 18:37)

ある日  ベル

君の書いた詩を読む
自然に涙が溢れた
言葉のひとつひとつに魂が宿っていて
生まれたこと
生きていること
大切な誰かにめぐり逢えたことへの
よろこびの詩だった  

そして
消えてゆくこと
消えてゆくこと
それでもたったひとり守りたいもの
君という証が
今この瞬間もここにあるから

僕も生まれてきてよかったと言える
君の詩で僕はまた勇気をもらった
一秒先も
この永遠を信じている
ありがとう

いつかめぐり逢うあなたへ

編集・削除(未編集)

靴を鳴らして   晶子

靴を鳴らして踊るといいよ
時には自分自身の為だけに
伸ばした腕が短かろうが気にしない
お腹が出てても気にしない
踊れないなんて奴に限って
よく鳴る靴を履いてるものさ
踊れないなんて奴に限って
ダンスの定義が御大層

音に合わせてスウィングすれば
自分だけに聞こえる音で
葉っぱだってやっている
誰に見せるでもなくやっている

街灯の下
公園の真ん中
人が見たなら笑えばいいさ
ちょっと羨ましいのなら
一緒に踊ってしまえばいいさ

好きなことは何?
楽しいと思えることは何?

靴を鳴らして踊ればいいよ
悲しかったら悲しくていいよ

それからよく眠ったら
この星のこれからを考えよう

編集・削除(未編集)

小春日和  静間安夫

波乱多き
わたしの人生に
ようやく訪れた
穏やかな日々

終の棲家になるかもしれない
小さな住いの
古風な書斎の窓から
今 陶然として眺めている―

わずかばかり残った
木々の黄色い葉が
かさかさと音を立てて
舞い落ちていくのを…

ときおりヒヨドリが
甲高い声をあげながら
屋根と屋根に区切られた空を
斜めに横切っていくのを…

路地裏の日溜まりからは
こどもたちの声が
とぎれとぎれに聞こえてくる
石蹴りに興じているのだ―
入り日と競争するように

そして わたしも
あかね色に染まり始めた
西の空をむさぼるように眺め
晩秋の世界に溶け込もうとしている

やがて
乏しいけれども柔らかい夕日に包まれて
我を忘れてしまうだろう
自我の重荷に苦しむこともなくなるだろう

こうした心持ちにたどり着いたのは
もはや限りある時間しか
自分には残されていないことを
悟ったからこそ…

自分自身にも
周りの世界にも
心底から満足している―
そんな気持ちなのだ

さりとて
穏やかな日々が長く続かなくても
いっこう構うところではない
時を経ずして
冬の訪れを告げる
刺すような木枯らしが吹きすさび
またたくまに
氷と雪に閉ざされる日が来ようとも
恐れるものではない

なぜなら
今のわたしには
はっきりとわかるから―
そうした凍てつく厳しい寒さのうちにも
ひっそりと救いの力が生れていることを…
待降節の人々の祈りは必ずかなえられることを…

もはや
わたしはこの世にいないかもしれないが
降誕祭のときには
再び冴えわたった夜空に
幼子である神のもとに
人々を導く星が現れるだろうことを…

編集・削除(編集済: 2023年12月17日 21:13)

言の葉紡ぎ  エイジ

いつの頃からか
言の葉を
紡ぎ続けている

時には虹の模様に編み
時にはケルト文様みたいに
この間はインドの曼荼羅
そっくりに編んでいた

どうやってそんな風に
編むのかと人は聞くけれど
ちょうど木の葉が
木の枝に生るように
言の葉が木に生っているから

美しいと思った言の葉を
一つずつちぎってくる
それをまんべんなく
地べたに並べて
その間に音だけの
ひらがなの言の葉を
散りばめていく

好みで敷物にもできるし
素敵な色の着物にもなるし
光を通すカーテンにもなる

どの言の葉が最適か
注意深く選んでいる時が
最高に幸せなのさ
組み合わせて
美しい響きにするのが楽しい
神秘的な文様にするのも
私の審美眼にかかっている

最後に言の葉で何を伝えたいか
編んで行くのは慎重な作業だ
組み合わせで色んな
メッセージを発信できる

今日もまた
言の葉ひとひら
舞っている

編集・削除(編集済: 2023年12月17日 11:26)

晩夏の蛍火  上田一眞

  甘い水に誘われて
  蛍来る
  小さな古池が中庭にある

五日前 突然身罷ったわが母
その衝撃に打ちひしがれ 
ただ日々を送るだけの脱け殻
泣き疲れ 
ひとり母の箪笥の前で伏しているとき
みなもを照らす淡い光を見る

 あっ 迷い蛍

昇天した地 橘坂*から飛んで来て
闇の中を彷徨う
母の化身か
幻か

 悲しげに 
    切なげに
 悲しげに 
    切なげに

こころの内にある
追懐の情にいざなわれ
仕舞う者をなくした
蚊帳の中に入る

 蛍

思わずわが手を差し出し
そっと囲おうとしてみるが
あまりに弱い光だから
涙の波間に溺れてしまう

母の着た 《死》の着ぐるみを
誰か脱がせてくれないか
わがこころの悲嘆を光に溶かし
蛍よ 阿弥陀仏の元へ届けて
と冀(こいねが)う

《朝(あした)には紅顔ありて
 夕(ゆうべ)には白骨となれる身なり**》

 ああ この無常

美しい月の夜に蛍火が灯る
それは寂寞(じゃくまく)とした
晩夏の夜の光

もうじき秋がやって来る
母なき季節が訪れる




 *橘坂 防府市富海 旧山陽道の景勝地
 **浄土真宗「御文書」より抜粋

編集・削除(編集済: 2023年12月16日 00:31)

時の遺産(続・地下に在り)③ 全四回連載 三浦志郎 12/15

  実況見分の日。もともとこの地域には旧海軍の地下要塞跡がある。海に向かって、
  不気味な穴を見せている。飛行基地地下通路の入口は、この要塞内部の迷路のような
  地下道を通らねばならない。出口はコンクリートで固められ、人ひとりがやっと這い
  出せるほどの間口しかない。このままでは実況見分ができない。コンクリートを破壊
  する必要があった。木々の伐採、重機・ダイナマイトによる破壊。菅野署長・署員・
  鑑識係・法医学の医師・横須賀消防署・海上自衛隊横須賀地方隊工作班員らが中に
  入った。もちろん浜野正春・貝塚新吉が先導するかたち。


四十年後に届けられた陽の光
地下通路が黄泉の国に誘うように続いている
野菜畑の下で長い歳月を吸い込んで来た闇

此処だけは
外界とは別の空気が流れているようだ

今は真昼のようにサーチライトが当てられ
通路に初めて入った人々が見たものは――
胴体だけのゼロ戦と二つの遺体
飛行服に身を固めて
操縦席には浜野正風大佐
死後も大佐に従うように
地面には貝塚新介少佐
傍らには
錆びた拳銃一丁

白骨の二人にとって
いまだ戦いは続いていた
仮にも身体をとどめているように
魂魄も今まで
この地下をさ迷っていたのだろうか

遺族の二人にとって
つい先日まで供養は続いていた
(いつまで秘密でいられるか?)
ただ二人に悪意はなかった
ただ人が時に襲われる
弱い心 優柔不断 無為無策 事の放置
優しさがかえって仇となった
そして
人を変えてしまう金という欲望


(二人は四十年という
時の使者の呪縛下にあった
二人は四十年という
時の課題を突き付けられてきたのだ)

白骨にとって
遺族にとって
光の世界を得たことが
これからの安息かもしれない

               *

  実況見分。まず遺体の調査、その後、収容・搬出が優先された。DNA鑑定と
  歯牙鑑定に付されるだろう。
  次に警察・自衛隊による通路周辺とゼロ戦の調査である。署員・隊員が
  各所各部、手分けして行う。操縦席を調査していた隊員が見たものは――?

                     
今は主を失った操縦席
隊員が淡々とチェックしていたが
突然その表情が驚きに変わった
座席の後ろの空間に紙箱が一個あったのだ
座席を前にずらして取り出した
開けてみると
札束  札束  札束 !
一通の文書―支払証明書―があり その金は
旧海軍横須賀鎮守府が浜野家に支払った接収土地代金と知れた
「八萬円也」とある
この金の発見は浜野・貝塚両人にはしばらく伏せられた

               *

  検死及びDNA鑑定の結果、浜野正風・正春、貝塚新介・新吉の親子関係が
  証明された。残された問題は二人の罪と罰である。
  問われる罪は死体遺棄。次いで墓地埋葬法違反である。検察庁に書類送検され、
  事件の継続性と時効の起算時期が焦点となったが、結局、時効は成立し、起訴は
  されなかった。時代背景、死者の事情、遺書の存在。加えて、凶悪性の無さ、遺体
  への誠実、自らの出頭、長い年月、などを当局が斟酌したらしかった。ただし、
  墓地埋葬法違反により罰金が課せられ、法に基づく埋葬が義務付けられた。


(四十年という時の使者が現れ
二人に告白を促した
同時に
二人を動かし苦しめた四十年で
彼らに救いの手を差しのべたのだ)

彼らは罪にはならなかったが
時効とはいえ この奇怪な事実は消えない
社会規範と良識からの非難を受けた
これは当然と言えた
浜野は町長を自ら辞任
貝塚は会社を依願退職
遺体は荼毘に付され改葬されたのは言うまでもない


**********
つづく。(前回12/1 次回完結12/29)

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滝本政博様、ありがとうございました。  妻咲邦香

滝本政博様、「ボーカリスト」に評をいただきありがとうございました。「かぶいてる」とは初めて耳にしました。ちょっと気に入りました。何処かで使ってみたいですね。
詩と意味性の関係に関してはやはり以前から言われてるだけあって常日頃考えを巡らせております。表現したいニュアンスとどちらを採るべきか天秤にかけることも多々あり、詩において本当に大事にしなくてはいけないのは何なのか、この同じ問いかけを常に繰り返しながら書き続けています。伝わることだけで詩がその役割りを終えてしまわぬよう、どうしたらただの文字の羅列に命を吹き込めるのか、私の永遠の課題です。滝本様のメッセージしかと受け止めました。ありがとうございます。いずれまた投稿させていただくかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

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溶けていく 紫陽花

真夜中に窓辺に猫が待っている
私は窓を開けてその黒い体を撫でる
猫は時々ニャーと鳴き
私の顔にひんやりした息をかける
私は猫の目を見る
猫はじっと私を見ている
そのうち猫がしゃべり始める
溶けていくのよ
溶けていくのよと繰り返している

そうだ夜明けが近い
溶けていく猫もこの闇も
そのうち私も暁に溶けていく
夜なんてなかったみたいに
なにもかも溶けていく朝は
いつかきっと来る
私は私の事も忘れてしまう
そんな朝がいつか来る

だから私は今日も闇夜を
ぎゅっと抱きしめたい

編集・削除(編集済: 2023年12月14日 21:30)

滝本様 評のお礼です 紫陽花

滝本様 詩集をおめでとうございます。表紙絵からお洒落で見入っておりました。今回も読んでいただきありがとうございます。
心ですね。書いているととめどないことになりそうで、怖いです(笑)また、宜しくお願い致します。

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沼地にて  荒木章太郎

見えないのではない
逃げているだけだ
聞こえないのではない
逃げているだけだ
忘れるのではない
逃げているだけだ
逃げて逃げて逃げて
逃げ切れるものではない

(俺は何をそんなに逃げ回っているんだ )

葉は赤く染まり散る
花は蕾から開き咲き誇り散る
草は芽吹き翠茂り黄金色に枯れる
人は生まれ死に際に輝き土に還る

逃げている間に
お前の代わりはいくらでもいる
お前一人が償えるものではない
底にいれば良いのだ

お前だけを責めても
何も見えぬまま時が過ぎ
恐ればかりが膨らむばかりだ
お前という存在は
お前だけでできている訳ではない

この世界の全てのものが
関係していないはずがない
逃げ切れるものではない
底で向き合えば良いのだ

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