MENU
23,251

あたまのわるい私は  荻座利守

あたまのわるい私は
いつも霞がかかったように
うつくしいものが
よく見えない

あたまのわるい私は
散らかった部屋のように
うつくしい言葉を
見つけられない

あたまのわるい私は
寒さにかじかんだ手のように
うつくしく
言葉をつづれない

例えば
老婆の手のような
プラタナスの葉や

陽光の欠片のような
たんぽぽの花や

龍の鱗のような
硬い柊の葉や

愚直なロボットのような
働き蟻の姿を
眼に留めて

風に飛び散り
消えてなくなるような
けし粒をかき集めるが如く

空を這いまわる雲や
風雨を呑み込んだ奇岩に
見る人が形を与えるが如く

とらえどころのない靄に
形をもたらそうとして

現れたものは
できのわるい紙風船
隙間だらけで
歪んだまま地に落ちる

それでも私は
なおも
紙風船を膨らまそうとする
あたかも命の息吹を
吹き込むかのように

そう
あたまのわるい私にも
ひとつだけ言えること

言葉に命を
与えてみたい

命を吹き込まれた
言葉そのものこそが
この世界に隠された
見えない次元の影法師
ほんの時折にしか現れない
真実への扉だから

隙間だらけの紙風船に
あたまのわるい私は
なおも
息を吹き込む

編集・削除(未編集)

おっさん  晶子

四月一日
夜のSL広場で
酔っ払いのおっさんが
一人でずっと騒いでた

誰かあいつを知らないか
名前なんかは知らないよ
呑み友達ってそうだろう
なんつうの
女性経験っつうの
あんまりなさそうだったから
ここは俺が兄貴となっていろいろ教えてやろうとさ
思っていたわけよ
弟みたいなもんだから
おっさんとでもしとくか
まあ俺もおっさんだけど

あいつはちょっと変だけど
いい奴なんだよ本当に
まあ俺もいい奴だから
いろいろ話してやったわけ
そんで俺元漁師っつったら喜んじまって
人をとる漁師になろうなんていいだしやがった
本当に変な奴
でもね
時々淋しそうな顔すんだわ
俺も淋しいからね
なんとなくわかるんだわ
俯いて
たぶんあん時は泣いてたな
えりとかさばとかいいながら

そしたら神の子になるとか言って急にいなくなっちゃうんだもん
心配するべ
大丈夫かよって思うべ
やめた方がいいよ
神様になるなんて
石投げられるぞ
大嘘つきって
でもあいつはいいんだって
大嘘つきでいいんだって
人がつかなきゃ誰が大嘘つくんだって
馬鹿が

もし見かけたら言ってやって
神様になんかにならなくていいから
俺はお前の呑み友達だから
待っててやるから
また来いよって

言うだけ言っておっさんは
SLの中に消えてった
消えてった

編集・削除(未編集)

雨の声  cofumi

空から降ってきた誰かの涙が
傘を伝って落ちて来る
ありがとうとか
さようならとか
許せないとか

  春の雨は冬の寒さを残しながら
  夏への希望を含んで

  夏の雨は何もかもに色をつけ
  空にも心にも虹をかける

  秋の雨は冷めかけの珈琲に似て
  残したものをどうしようかと思いを巡る

  冬の雨は静かに時間の上に降り
  一粒一粒が語りかけてくる

過去を振り返ったり
過去が追いかけて来たり
グチャグチャの本棚を整理するように
上手く並べられたら
心も落ち着くのかな

編集・削除(未編集)

えがお  じじいじじい

さいたさいた
おうちのにわに
きいろいはなさいた
チョウチョやアリンコ
いっぱいあつまる
やさしいえがおの
きいろいはな

さいたさいた
クラスのなかに
えがおのはなさいた
おとこのこおんなのこ
いっぱいあつまる
やさしいえがおの
なかまってはな

さいたさいた
せかいじゅうに
へいわのはなさいた
せかいのひとたち
いっぱいあつまる
やさしいえがおの
へいわってはな

きいろいはな
なかまってはな
へいわってはな
どれもみんな
しあわせってはなのたねから
さいたはなだね
みんなもさかそうよ
いつだってどこだって
しあわせってはなは
だれでもさかせられるから

編集・削除(未編集)

裸の胸  妻咲邦香

静かな夜には
裸の胸がよく似合う

抱き合って
抱きしめ合って
一つになるのに
裸の胸がよく似合う

毛が生えてても
生えてなくても
固くても
柔らかくても

膨らんでても
へこんでいても
ほくろがあっても
よく似合う

始まる時でも
終わる時でも
愛し合ってても
憎んでいても

静かな夜には
何もない夜には

お腹が空いてても
喉が渇いても
月が見えても
見えなくっても
雨が降っても
晴れてても
二人きりになったなら

本当に
本当に
裸の胸がよく似合う
今この時だけは

編集・削除(未編集)

手紙  小林大鬼

手紙よ手紙
迷子の手紙

人から人へ届けるはずだった
切手が泣いている


手紙よ手紙
迷子の手紙

誰かの思いを伝えるはずだった
インクが滲んでいる


手紙よ手紙
迷子の手紙

忘れられるのが一番辛い
消えるのが悲しい

編集・削除(未編集)

ムルソー  西条紗夜

異邦人のムルソーをなぜサイコパスとか発達障害というのだろう
人間は本来こんなものだ

むしろ彼以外が不自然だ
彼は当たり前の人間だが文化や慣習が彼を異様に見せている

母が亡くなったからと言って いい大人が喜劇映画を見るのをためらうか
「全て健康な人間は多少とも愛するものの死を願うものだ」
それはそうだ
女友達と海水浴どこもおかしくない
太陽が眩しすぎて拳銃の引き金に指を触れていたら引くことだってあるかもしれない

彼を殺したのは社会だ

編集・削除(未編集)

海 おおたにあかり

海が海であるということが
こんなにも 目にしょっぱいのは
わたしだけじゃないと おもった

海は広い この世界も広い
砂浜歩きながら そんなことばかり
かんがえていた

走ってみた 思いっきり
すぐに息がきれた
なんで一人で
ここを歩いているのだろう

でも気づく 思い知る
ひとりをえらんだのは
ワタシってこと

砂浜に よく意味のわからない
よむこともできないような
だれかの文字をみつけた

少しならんで歩いてみた
くつをほうりだして
砂がくすぐるから しばらくは
笑っていた なのに 少ししたら
涙がでてきた わらいすぎたのかな
おかしいな

こんどだれかをすきになるのなら
だまって ふたりで うみを
まいにち ながめていられるよな
そんなひとにしよう

編集・削除(未編集)

赤ちゃん

土の匂いで育つ赤ちゃん
絵本にくしゃみして
知らない人からのプレゼントを
家族に報告する

『洋服はただの膜だ』
『これは自立した心だ』
『いくつかの用事を終わらせるのだ』
赤ちゃんも大変ね。

宇宙の端っことピアノの黒
なにがちがうの?と言われれば
言い争って、ぶってぶって
おそろいの涙を流す
そんな赤ちゃんが沢山いる

彼らは人から産まれてきて
呼吸を持っている
そんな赤ちゃんだ

編集・削除(未編集)

ベイシー夫妻のメリーゴーラウンド  三浦志郎  6/17

始まり  WILLIAM & CATHERINE

マイルストーンホテルの結婚披露宴は―、
少し風変わり。その集いは微笑ましい趣
向でお開きとなる。ホテルの隣は遊園地。
挨拶を済ませた新郎新婦に来客が続く。
幸せなふたりの為にメリーゴーラウンド
だけは、ひとときの貸切になる。ふたり
は伯爵(COUNT)とその夫人のように睦
まじく馬車に乗る。バンド仲間の演奏が
賑やかに、この遊具に調和する。新婦は
ジューン・ブライド。人々は周りを囲ん
でライスシャワーで祝福する。笑顔と歓
声が巡る。来園客も微笑んで眺めている。
やがて新たな人生が回り始める。


二十年後  WILLIAM & CATHERINE

夫はツアーにライブにレコーディング。
実に多忙だが、この日だけは仕事を入れな
い。夫婦は結婚記念日にこのホテルを訪れ
る。夫人をエスコートしてディナー。ほろ
酔い気分で、メリーゴーラウンドに乗るの
が毎年の慣例になっている。ふたりは想い
出している。ここからスタートしたことを。
回り続ける“ふたり時間”を祝い楽しむ。


四十年後  WILLIAM & CATHERINE

子供たちも巣立って、夫婦は再びふたり
だけになった。結婚記念日に、このホテル
と遊園地を訪れるが、ローラーコースター
に乗るには少し老いたようだった。もうふ
たりとも恐くて自信がない。メリーゴーラ
ウンドは快く受け入れてくれる。ファンだ
ろうか?手を振ってくれる人々がいる。
ふたりの“想い出アトラクション”。


六十年後  ONLY CATHERINE……

その日。パートナーはすでに亡く、独りに
なったその人は息子の車に乗せてもらい、
やって来る。もうホテルで食べたいものも
なく、紅茶だけが目の前にあった。杖を突
きながらメリーゴーラウンドに向かう。
披露宴の時を想い出して馬車に乗る。隣に
パートナーはなく、代わりに息子が一緒に
乗ってくれる。そんな風景を係員は不思議
に思うのだが。理由を話せば、きっと―、
やさしい気持ちになるだろう。
(ふたりの時間はこの乗り物のようだった)
あの人の音楽を想い出しながら、
老婦人はそんな比喩を味わっているだろう。

歳月は楽しく巡ったのだった。




           * ベイシー……COUNT・BASIE、アメリカのジャズ音楽家、
                   ビッグバンドリーダー。本名はWILLIAM。 
                   1984年、79歳没。


****************************************

メリーゴーラウンドをモチーフに書くのは、これで三作目になります。
おそらく、その回る感覚が自分の時間意識と連なっているのかもしれません。
私もベイシーさんが乗るメリーゴーラウンドに手を振る一人であります。

編集・削除(編集済: 2022年06月17日 04:38)
合計446件 (投稿446, 返信0)

ロケットBBS

Page Top