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約束  妻咲邦香

前の車が急に止まった
しばらく動かなくて、渋滞でもないのに
どうしたんだろう、と思っていたら
降りて来た運転手
車の前でしゃがみ込んだ

子猫だった
たぶん生まれたばかりの
足腰もまだ覚束ない子猫
抱えられ、歩道の脇に置かれた
運転手は済まなそうに手を上げて
後ろの私たちに合図した
そして車に戻って
また走り出した

子猫は生きていた
泣くでもなく
探すでもなく
かといって、怖がるでもなく

もっと世界は優しくなれる
いつか誰かと話してたような
そんな気がする
ふと思い出す

しばらく走ると
道の真ん中
一匹の猫が死んでいた
大人の猫だった
さっきの子猫の母親かもしれない

前の車が避けて通る
私も慌ててハンドルを切る
誰も止まらない
誰も見向きもしなかった

もっと世界は優しく出来る
あなたもそんな約束したの?
私は多分、していない
まだしていないのだろう

もしかしたら
何処かに置き忘れて来たかもしれない
一瞬目を向けるバックミラー
誰も写ってないから
私は少し安心して
アクセルを踏み込んだ

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夜明け前の無人駅

雨はシャーベット状になりやがて雪になった
無人駅の近くには川が流れ
寡黙な景色とともに長い冬のプロローグを描いていた
六時半の汽車が入り、人気のない駅に
一時のわずかなディーゼル音が聞こえ
やがて人工的な警笛が鳴ると
県境のトンネルへと向かっていった
もう少しすれば除雪作業員の白い息が
夜明け前の無人駅のプラットホームに彩られる
重くたたずむ白い光の外灯の下で
ざくりざくりと雪をすくっては捨てる
冬へのいざない
そこに立ち向かうための
橙色の灯りと
冷たさを切りさく
ナイフを磨く

編集・削除(編集済: 2022年12月09日 07:31)

秋の祟り 暗沢

腹中にて石へと転じた
赤錆めいたグロテスクもまた
秋の実装であったろうか

過ぎる紅黄を惜しみつつ秋を
押し込んだものであるが
転じて石へ 鈍痛へと
挙句の果てに
然るべき場所にて溶解に至った

それら 一見するならば
凝り固まった屎にも見え 或いは
鉄屑のなり損ないにも似た奴らも
また秋の実相であったかと

「あんた、柿を食い過ぎましたね。美味しいからといっても少し控えないと」
などと医師がレントゲンに映る影を指差し言う いや実に
秋という季節とは難儀な季節であったな
冬からは蜜柑にしようかな


※柿胃石について https://www.hospita.jp/disease/3728

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言い訳  朔音

泣きたくても 泣きません
私は大人になったから
泣く事は恥ずかしい事
直情的なのは幼い事
私は大人になったから
泣きたくても 泣きません

泣きたい時は 泣くんです
悲しい時に泣けないのは
もっと悲しいから
そんな人にはなりたくないから
私は悲しい時に泣くのです

二十歳を過ぎた私には
泣くこと一つに
こんなにも言い訳が必要です
もし三十になったら
もし四十になったら
どれほどの理由が要るのでしょうか

こんな事なら赤子の頃に
もっと泣いておけば良かった

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トイレにて  樺里ゆう


今日の血は黒い
とっても黒い

ナプキンについた経血を見て
わたしはそう思った

なんでかなあ
いつもは もっと赤いのに

人間がスケルトンだったら
血の色が変わるさまも
変わる理由も
わかるのに

女性型ロボットに
生理って 来ます?

もしあったら
ドラミちゃんも
ボッコちゃんも
ああお腹痛い
頭がボーッとする
ってうめいたり
泣いたりすんだろーね

あれ 急に
人間くさくなるなあ

ああでも ボッコちゃんはともかく
ドラミちゃんはネコ型だから
生理は ないよなあ……

とかなんとか
とりとめもなく
便器に座りながら考えている
生理一日目の夜

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キミに何してあげられるだろう  まるまる

キミに何も させなかった
お風呂掃除
新聞取り

してもらうのが当たり前では
幸せにしてあげられない
いつか来てくれる お嫁さんを

どうしよう
小さい頃のキミのせいだよ
全てを委ねたあどけない瞳
 お母さんは いつも布団を敷いてくれるね
その笑顔が見たくって
あれにもこれにも手を出した

私の時代はそれでよかった
動きを止めないお母さん
新聞を読むお父さん
毎日はそう過ぎた

時代も家庭も変わり続けて
インターネットに掃除ロボット
お父さんの居る意味も
もう稼いで来るだけじゃない
等身大の一員として
期待の視線が注がれてるよ

育て方間違った
大きくなってしまったキミ
お手伝い させなくちゃ
母は病気で寝込んでみようか
アパート見つけて家から出そうか

さあ どうしよう
取り返しをつけるため
キミに何してあげられるだろう


また手が 出ようとしてる

変われっこない
これじゃあ いつまでも

編集・削除(編集済: 2022年12月08日 19:28)

夏生様 御礼 さくたともみ

夏生様
はじめまして。ご感想ありがとうございました。
気がつけば秋も終わりになっていて、季節の早さにびっくりしながら書きました。
この頃は葉の散り始めだったのですが、今ではすっかり雪景色です。
また書かせて頂こうと思いますので、その際はどうぞ宜しくお願い致します。

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くしゃみ  秋冬

くしゃみが
止まらず
困っているのに
うるさい
と怒鳴られた

うるさい
とは何だ
と文句を
言いたいのに
また
くしゃみが
出て
また
うるさい
と怒鳴られる

どう
考えても
くしゃみより
怒鳴り声が
大きいから
うるさい
と怒鳴り返したい
のだけれど
また
くしゃみが
出そうになり
怒鳴り声に
負けるものかと
くしゃみを
頑張ったら
余計に
目くじらを立てて
うるさい うるさい
と更に怒鳴り散らす

まるで
漫才
みたいだ

くしゃみ担当の息子と
怒鳴り担当の父親

でも
オチが
ないから
二人とも
飽きてくる



その時


派手に
くしゃみを
したのは
父親で
うるさい
と怒鳴ろうとした
僕は
またまた
くしゃみを
する


しばらく
顔を見合わせ

た後


二人で
噴き出し
笑い合う

言い争いの
始まりは
くしゃみ
終わりも
くしゃみ

親子は
揃って
鼻炎なのだ

笑ったら
くしゃみが
止まった

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聖地巡礼 埼玉のさっちゃん

雲の流れを目で追いながら
小説片手に聖地巡礼してみる
物語の世界に妄想しながら
主人公の気持ちに浸ってみる
あの時の想いはこうだったのか
その時にとった行動の意味は
きっとそうなのだろう
繋いだ手のぬくもり
涙の理由
そして
雨上がりの虹を見上げ笑顔になった事
さっきからラララと
テーマソングが頭の中で流れだしている
鼻歌交じりに歌ってみたら
何だか心のトゲがなくなった気がする
夜明け前の
凍てつく寒さにふと
心があたたかくなった

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愛が数値化されるのがとても心配 紫陽花

コンビニのドアに
150、160、170
と印がある
コンビニドアは私の身長を知りたいみたい
今日もそっと背伸びをしてあげましょう

気づけば至る所に防犯カメラ、時計、検温
病院なんかもっと酷い 
私は気分がいいのに
血圧が上が86しかない
しんどいでしょ?だって
いいえちっとも 私のいつもです
しかもご機嫌です
なんでも私を数値化して記録して履歴に残す

そのうち愛なんかも数値化されてしまうかもしれない
AIだとか科学は日々進歩してるんですってね

きっとこんな感じで愛は数字にされていく
ある日CMで素敵な女優さんが
愛は健康寿命を延ばしますなんて微笑む
各家庭に愛測定器をと にこり
町中に愛測定器と女優さんのポスター
それに刷り込まれた素直なあなたは
愛測定器を購入してしまうだろう

ある日帰宅したあなたを見て
私はしゅんとする
新しもの好きのあなたは上機嫌
早速電源入れてWIFI繋いで設定して
動き始める愛測定器
実験にと私の声やら体温やらを入力
ハート型の可愛いボタンを撫でると
相手に対する愛が数字で出てくるようだ
例えばこんな感じ
12月7日8時5分 愛50
でも私は知っている
どんな数値が出ても
あなたはふーん、へえと大していつもと
変わらないリアクションをすることを
だけど私は愛の数字が気になって
毎日100を出そうとあくせくするだろう

私の愛は
いつだって
マックス100なんて
超えてるのに
計りきれないのに

でもきっとあなたも世間も
愛測定値を信じてしまう
そしてそのうち私も
愛測定値にひれ伏してしまう

編集・削除(編集済: 2022年12月08日 21:21)
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