昨日のこの場所に
私は戻れるでしょうか
昨日のこの場所に
もう一度戻って
再び今日という日を
この場所で迎えることが
できたならば
今見ているものとは
まったく違った景色を
見ることでしょう
昨日のこの場所で
微笑みながら
手招きするあなたのもとへ
再びもどって
あのときの私に
まとわりついていた
尊大さや傲慢さを
破り捨てることができるならば
この先の
未来に残された全ての時間を
差し出してもいいでしょう
昨日のこの場所は
今と同じように見えながら
全く違う場所
もう戻れない場所
昨日のこの場所で
私を見つめていたあなたは
すぐそばにいるように見えながら
何万光年も離れた星ほどに
遥か遠くに佇んで
寂しそうな
淡い微笑みをうかべて
手招きしています
幽かにまたたく星のような
霞みゆくあなたの微笑みに
照らされるたび
追憶に胸を貫かれた私は
震えおののくのです
今日のこの場所に
何も残されていないこと
誰も待っていないことを
改めて気づかされ
ただ呆然と
立ち尽くすだけなのです
しんしんしん
深い森の響きのなかで
ゆったり揺れるよ
ハンモック
お父さんの得意だった
アコースティック・ギターを想いながら
眠そうな子供たち
響くよ 響くハーモニクス
コン カアン コン
スラップでアクセント お父さん
四小節のメロディーが
森の中を循環してゆく
緑に溶けゆく音符たち
目を擦っている子供たち
森の奥深く
リスが住む樹の下で
まどろむ まどろむ子供たち
いつも眠るハンモックの上で
お父さんはいないのよ
病気で昨日旅立った
さあさあさあ 眠りましょう
我慢する必要はありません
お父さんは天にいます
だから おやすみ子供たち
休暇届を出しましょう
眠れ 眠れ 子供たち
生きる
ということの
真ん中に
いられずに
落っこちてしまわぬよう
端の方に
なんとか
しがみついている
真っ当に
生を感じることもできず
死んではいない
そのことを認識はできても
胸を張って
生きているとは
とても言えない
まだなにも知らない
生きるということの
真ん中に
指ひとつでも
触れられるまで
しがみつく
この手を
離すわけにはいかない
ある日、時計の針が遅れて
貴方が直してあげると言った
余計におかしくなったけど
その日から時計は飾りになった
呪文の文句は覚えてても使わない
貴方も本当は飛べるのに、羽根は使ってないよね
塩加減間違えた手料理だってもくもくと食べる
いきなり泣き出した時は目の前でオロオロする
狭いベッドで毛布を引っ張り合って、負けたら叩いて起こす
みんな奇跡だよ、この星で覚えた新しい奇跡
たまたま綺麗な朝焼けも、次が来るまで一緒に待てるよね
つまらないことで小突き合ったりしながらも
折りたたみ傘を黙って鞄に忍ばせたりして
約束はしない
遥か昔、生まれた時にもうした筈だから
言葉に変えたものは引き出しの奥、押し込んだままだけど
貴方みたいに綺麗さっぱり忘れちゃうのは嫌だな
あんなにあった愛なんてとっくに使い果たして
今は石鹸みたいに小さくなった
大丈夫、もっと大きなものが残ってるから
だから隣りを歩くよ
時々歩みを止めて、背中を眺めるよ
初めて見つけたあの日みたいに
壊れた時計に時なんて要らないから
何もかも余計なことしいの、私たちのしでかすこと
それでこの星を回していくんだから
まだ開かない扉の前、なんて格好してるの?
似合わないのはお互い様と思わず口走った
そんな自分を恥じながら位置に着く
そう
わざわざ巻き戻して「初めまして」と言うための今日は
最初で最後の無駄遣い
勿体ないものしかないよ
明日からは
中途半端な田舎では
あまり星は見えない
ベランダから空を見上げても
にぎやかなマンションの明かりたちのせいで
星はポツリとしか見えない
都会の夜空はどんなだろうか
地上にはたくさんの星空
でも、空は真っ暗闇のひとりぼっち
そんな夜空をあなたは
見ているだろうか
メールを送れば答えは返ってくる
だけど
離れていることを
感じていたいのかもしれない
なんとなく
あなたは空なんか眺めない
わかっていても
唯一つながる空の下
夏の大三角形を
探してみる
あの頃に
戻れずにいる
君と僕
空白のままに
月日は流れて
あの頃の
真っ直ぐな一本道は
いまではもう
迷路のようになってしまい
君がいた
あの頃に
もう二度と辿り着けない
かつて見上げた
真夏の青空には
二本の飛行機雲
いつまでも
何処までも
果てしなく
続くものだと思っていた
あの頃の
面影も薄れ
儚く消える
空白のままに
月日は流れて
良い書き方だと言っていただけて嬉しいです。
出口なし。
まさにそんな感じです。
人生って大きく見るとそういうものな感じがしています。
そしてどんよりとした中、それでも踏み出していくという一筋の光のようなものも自分なりにえがいたつもりです。
今回初めての評をいただきありがとうございました。
齋藤純二様
いつも私の詩に丁寧なご感想を頂き、誠にありがとうございます。
8月16日に投稿させて頂いた「黙示」(No.480)という詩につきまして
先ほど編集機能を利用して訂正しましたので、お知らせ致します。
どうかよろしくご指導のほどお願い申し上げます。Liszt