◆ここは「MY DEAR掲示板」です。
詩をある程度の期間書いている方、詩に意欲的に取り組みたい方、詩人に向け成長を目指す方はこの掲示板をご利用下さい。
あなたの詩をしっかりと読み、評や感想を、しっかりと書かせて頂きます。
ここから詩人として巣立った人は数知れず、です。あなたの詩を継続的に見守り、詩の成長を助ける掲示板です。
(あのーー、私が言うことでもないんですけど、詩は自由を旨としていますから、どこにでも投稿しようと思えば、投稿できないところはないんですけど、いきなり大きなところに挑戦しても、世の多くのものがそうであるように、ポッと書いて、ポッと通用する、ポッと賞が取れる、なんてことは、まずありえないことというか、相当に稀有な話なのです。
やってみることは止めませんけど、大きなところのノー・レスポンスにがっかりしたら、
あきらめてしまう前にMY DEARに来ませんか?
MY DEARは投稿された作品全部に評をお返しします。
本来、こつこつ実力をつけてから、賞などに挑戦するのが、スジだと思いませんか?
MY DEARはあなたのこつこつを、支援するところです。)
なお「MY DEAR掲示板」では、新規ご参加の際に、ペンネームとメルアドの届け出が必ず必要です。
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どうぞご希望に応じて、各掲示板をご利用下さい!!!
皆様、体調に気をつけて、良い新年をお迎え下さい。
皆様の頭上から、たくさんの幸せが降り注ぐ事を心より願っております。
来年もまだまだ未熟者ですが、よろしくお願い申し上げます。
初めての恋
初めての彼
初めてばかり
付き合い始めても
なんで不安なことや
切ない気持ちは
消えてはくれないの?
束縛?嫉妬?こんな私が嫌になるよ
あなたの心の中がもしも見えたなら
そこに私の居場所は出来ましたか?
少しでもいいから
私の事を思ってくれたりしていますか?
不安も感じない実感も消えないまま
初めて二人で出かけた人混みの中
「あの………逸れないように手を………繋いでいい?」
俯きながらあなたが小さく呟いた
そっと差し出した私の右手を
あなたの左手は優しく包んでくれた
大きくて温かくって少し震えてて
ぎこちなくあなたはそっと指を絡めて握ってくれた
あっ!わたしはこの人に好かれているんだ
繋がれた手と手から伝わる不思議な感覚
あなたの心の中が見えた気がしたの
そこには私の居場所がちゃんとあって
あなたは私の事を好きでいてくれて
手を繋ぎたいと形にして伝えてくれた
私の頬を自然と涙が流れてる
嬉しくて嫉妬も何もかも吹き飛んで
私はあなたに好かれているんだと心が感じてる
あなたが心を伝えてくれている
驚いたあなたは人混みの中
あたふたしてるけれど大丈夫だよ
私の心の中であなたが溢れてる
きっとあなたの心の中も
私が………
時代のスピードにも、値上げラッシュのスピードにも、置いてけぼりを食らいそうな、
激動の一年だった気がします。
ともあれ、今年も一年、乗り切りました。皆様お疲れ様でした。
そして、一年間、MY DEARとMY DEARの掲示板ご利用、ありがとうございました。
心より御礼申し上げます。
皆さん、どうぞ良いお年をお迎え下さい。
2026年が、皆さんに幸多き年でありますように。
眩しすぎるイルミネーションの日々
夜空に広がっていた神話は
更新されないまま
静かに消去された
白夜仕様のベッドに
僕はうつ伏せに飛び込んだ
眠りは浅く闇に沈めない
魂が跳ねている
存在は軽量化されて
数値に変換された
比較可能な単位へと解体された
哲学を重石にして
沈もうとする
だが
深度は制限されている
そこは
無意識と呼ぶには
あまりに明るい
巨大な企業が空を覆い
名もなき群れが
互いを評価し
互いを是正し
互いの正しさを
黙って見張っている
監視カメラに守られていた
光は安全で清潔で善意だ
感情でさえ
最適化され
記録され
効率よく
流通してゆく
底は糠床になっていた
前世紀までの記憶は黄ばんだ鉄屑となり
意味も由来も失ったまま
絶望の縁で発酵し続けていた
現実と本能が混ざり
酸味とカビの匂いが立ちのぼる
実存と認識が溶け合い
涙と血の味が
言語化を拒んでいた
ここはこころ
だが
内面ですら完全には
照らしきれていない
魂は
肉体に宿るのではない
心に宿る――
どこかで
まだ信じている
心は宇宙
測定される前の
沈黙を抱え
光の届かない
あたたかな襞が
蠕動している
母親の手で糠床を
掻き回しているような動きだ
そこは魂の通り道
そこでは
管理も
評価も
まだ
息を潜めている
そして
名もなく
声もなく
それでも確かに
希望が胎動していた
⚪︎都合によりお先に失礼致します。
「むぐつちよ」萩原蔵王さん
萩原さん、こんにちは。お待たせいたしました。こちら青空の一日です。
ご投稿ありがとうございます。作品拝見いたしました。
こちらは古語調の作品で、そのためひらがなで統一して書かれたのかなと解釈しました。古語調で書くことについて、この掲示板のルールには特になかったので、このまま拝見します。和歌が得意な方だともっと深く読み取れるかもしれませんが、私の知識の範囲で読ませていただきましたのでその点はご理解いただけると嬉しいです。
「むぐつち」が何かということが実はわかりませんでした。ただ、これは呼びかけになっているため、固有名詞なのかなと想像します。そうするとこれが何かよりも、これに何を伝えているかの方がこの作品の核となると思います。
一連目、この連はどんな荒波からも守って、という言葉から始まります。真砂という儚さをもつ浜辺をも守って、そうしているうちに春が訪れるのかしらという問い。そして二連目には喧騒の中で耐える桜の蕾や泣き出しそうになりながらもほころんでいこうとする梅の花に心を寄せながら、それでも万物に自然に春は訪れるのかしら、という風に解釈しました。この作品には直接書かれていませんが、心の揺れがとても美しく見え隠れしています。それと日本語の持つ特有の美しさと細やかな心の機微が込められています。さまざまに解釈できますが、例えば、受験期にも当てはめられますし、もっと大きな世界への祈りと考えることもできます。古語というのは本当に美しい日本語だなと改めて感じました。「むめのはな」「あにかなしや」などなんだか色彩までもが日本古来の色が重なるようでした。
「傘花」上原有栖さん
上原さん、こんにちは。お待たせしました。
とても素敵なタイトルですね。これもまた日本語って美しいなって思える「傘」という漢字です。そして、私事ですが、最近とてもきれいな傘をいただいたんです。花模様なんですが、骨の形が花になっていて、それで、このタイトルとピッタリあっていてとても嬉しくなりました。
そしてそのタイトル以上に素敵な内容の作品で、これはなんだか年末に大きな花束をいただいたような気持ちになる作品です。佳作です。とても素敵です。
直すところはないです。このままで。
内容ももちろん素敵なのですが、姿の良い詩ですね。さっと上から下まで最初に眺めたときに「きれいな作品だな」という印象を持ちました。これは行の長さ、連のバランス、そして漢字の位置やひらがなとの配分、などいろんな要因が重なった結果だと思いますし、そこまで意識せずに書かれたと思います。ただ、なんとなく書いてもそういう感じになるというのは、やっぱり上原さんの実力だと思います。詩自体が美しく咲く傘花たちのようになっていて、そこに雨の粒、虹、光、そして希望が見える作品でした。
:::::
明日は大晦日となりました。今年も大変お世話になりました。
スケジュール帳(にメモがある)をさっと読み返しながら、今年もたくさんの方の良い作品と出会ったなと感慨深いです。皆様、本当にありがとうございました。
年末に悲しいお知らせをいただきましたが、今日は評を書きながら、気付くと「Kazu.さん、今回も良い作品を拝見できて幸せなだよね」なんてKazu.さんに心の中で話しかけていました。きっと他の評者の方も同じお気持ちかななんて思っております。私たちはずっと忘れませんよね。
皆様、お幸せにお健やかに新しい年をお迎えになるよう心からお祈りいたしております。
こんばんは
わたしはドリー
女の子の姿をしたお人形
大きな瞳が可愛いでしょう
身体は球体関節だから
他のお友達より驚くほどしなやかに動くの
ご主人様が思い描く
どんなポーズだってとれるわ ほらね
ドリーの名前の由来は
人形の英語 ドール(Doll)からきてるの
みんな可愛いと褒めてくれる
でもね
所詮は人の姿を模したもの
どんなにお顔が可愛くても
どんなに衣装を着飾っても
わたしの腕に血液は流れていないし
わたしの髪は化学繊維を束ねたかつら
微笑みは蜘蛛の巣みたいに張り付いている
ドリーも聞き役じゃなくて
ご主人様と一緒にお話ししたいな
ドリーもお留守番しないで
ご主人様と一緒に旅行したいな
ドリーも素敵なドレスを着て
ご主人様と一緒にディナーを食べたいな
あのね
人の身体の中には
重さ21gの魂があるんだって
とても軽い 軽いわね
でもそれが
ヒトをヒトたらしめているのね
わたしたち人形には決して無いもの
魂が抜けた亡骸は
ドリーと同じ人形みたいに見えるのかしら
その姿はわたしみたいに可愛いかしら
魂って
どんな形をしているの
どんな色をしているの
ドリーの話を聞いてくれてありがとう
もうすぐ夜明け
ご主人様が部屋から降りてくるわ
わたしはドリー 人形のドリー
夜中にやって来たあなたは
わたしの声が聞こえるのね
夜中にやって来たあなたは
あなたは、だあれ?
*********
・球体関節人形:BJD(Ball Jointed Doll)人形
手足などの関節部分が球体になっていて
ゴム(テンションゴム)やSカンで繋ぎ合わされ、
人間のように滑らかにポージングできる人形。
カスタマイズ性がとても高く、メイク、目の大きさ、
かつら、衣装などを自由に取り替えて自分好みの
人形を製作できる。
・魂の重さ21gについて
米マサチューセッツ州の医師、ダンカン・マクドゥーガル(1866〜1920)が提唱した。
死にゆく人間の体重変化を記録することで「魂の重さ」を計測しようとした実験から。
オカルトの一種。
参照リンク↓
https://www.discoveryjapan.jp/news/k5d7eiub2cie/
鍋に沈めた黒豆から
水面に色が溶け出し
音もなく 滲み広がる
じっくりと時を重ね
立ち昇る湯気の向こう
色は淡く 輪郭を失い
記憶の底へと透けてゆく
ことこと 静かな熱の調べ
ふつふつ 豆の独り言
満ちる蒸気が
冬の家の体温を灯す
冷たく硬かった芯も
やがてほどけて
ゆっくりと緩んでゆく
煮込まれた黒豆は
再びその色を纏うけれど
もう以前のような
頑なな黒ではない
一粒一粒が
内側から柔らかな光を放ち
新たな艶を湛え始める
俺は密度を愛せない。抽象的な言葉が嫌いだ。何も考えず、人通りのある街を歩いて、ありきたりなコーヒーを飲むと心が落ち着く。
しかし、そのカフェへと向かう道には、その平穏を乱すものがある。気がつくと、ビル群の隙間、入り組んだ路地裏に立っている。何度も来ている気がする。歩き方を迷う前に、足がもう知っている。曖昧な順路で歩いて行くと、その突き当たりには黒い板に銀のドアノブが付いた扉があった。ビル風の温度ではない、人の体温のような湿気を含む風が、一つの扉に向かうよう整流されており、俺の背中を押す。
促されるままにドアノブを捻り、見た目に反して拍子抜けするほど軽い扉を開く。
一歩入ると、景色が変わった。暗い部屋だ。
壁のステンドグラスが、拡散した鈍い光で微かに空間に明かりを届けている。
その壁の他には黒い光沢のターンテーブルが一台あり、女が一人、ステンドグラスを背にして椅子に座っていた。西洋中世の風合いの白いドレスを纏った彼女は、顔の輪郭がひどくぼやけており、若干の微笑みが感じ取れるだけだ。
「いらっしゃい」
女のか細い声が部屋に反響した。
俺は返事をせず、「座って」と言われる前から向かい側の席に座る。テーブルの上には何ら御馳走はなく、誰が回している訳でもないのに、ひとりでに回転している。
この虚無的な情景をして、俺に何を見せようというのか、苛立ちと共に考えるが、彼女は意味のあることを何も言わない。この空間での沈黙は、擦り切れるほど読んだ純愛小説のような味けなさへと、俺を導く。
俺が無言の合間に耐えきれず口を開く。
「今日は平日なのに随分道が混んでた。何かと思って調べたら、世間は祝日だったらしい」
この当たり障りのない会話のきっかけも、ただ薄闇に吸い込まれるだけだ。
なぜこんな仕打ちを受けなければならないのか、検討もつかない。しかし、何度も来ているうちに、分かったことがある。どうやら、この女は俺に気があるらしいことだ。
睨みつけても、あえて目を背けて時間が経つのを待っていても、彼女は薄ら微笑んだまま、この時間が彼女のささやかな全幸福の種であるかのように安らかな表情で俺を観ている。どこかで会った訳でもないし、そもそも存在してすらいないであろう影のような女の像は、紛れもなく俺に歪んだ愛を向けている。
「なあ、もういいだろ。なんの意味がある」俺は問う。「お前みたいな無口で薄気味悪い女は好きじゃない。強いて言うなら、お喋りで頭の軽い、優しい女が好きだ」
ゆらり、と彼女の胸元の辺りに蝋燭が灯った。その手には金色のメッキが殆ど剥がれ落ちた古い蝋燭台が乗せられている。
ターンテーブルの向こう側、女の目元は陰に隠れて口元だけが露わになった。白い喉、桜より薄い色味の、細い唇。初めて見た立体的な彼女の顔は、作り物めいていたが、その美しさに唾を飲んだ。
「綺麗なんだな。顔を見せてくれたんだ、次は何か言ってくれないか」
ここに来て初めて、少しの高揚が俺の心に芽生え始めていた。
i-o-u。彼女の口がそう動いたように見えた。
「なんだ?聞こえなかった」
俺はそう言って蝋燭の奥の彼女の顔を覗こうとした。
途端、キュルキュルという音が聞こえて目線を落とすと、ターンテーブルの回転がレコードの再生時のように早くなっている。次第に、ガタガタと、中心に一本生えたテーブルの足が軋み始めた。
どうにも不穏な様子に俺はこの得体の知れないものを怒らせたのかも知れないと思い、冷や汗が滲んだ。
彼女を見ると、テーブルの回転に同期するようにして、細い唇が千切れんばかりに動いていた。そこから音は漏れていないようだった。
いよいよ訳がわからない。俺にどうしろというのだろうか。それに、前回までならとっくにこの部屋から解放されている時間だった。募る不安に任せて、「いい加減にしてくれ!これ以上俺に関わるな!」と俺は叫んだ。
ピタリ、と彼女の唇が閉じた。ターンテーブルの回転音だけが静寂の中で響いている。
にわかに、彼女の手が蝋燭を少し持ち上げた。やはり人形のように細い鼻、茶色く薄い眉、そして——目だけは違った。見開かれた瞼、火の橙色を映した虹彩、そして、その光を滲ませているものは、涙だった。下瞼を決壊した雫は、蛇口を閉め損ねたように、そろそろと頬を流れ落ちて行く。
頭痛。俺は鋭い痛みを感じて頭を抱えた。
ああ、記憶!
溶けた時間の砂塵を含み、薄灰色に霞んだその雫は、追憶の縞をまといながら、彼女の胴体を伝って行った。そして、ゼンマイ式の鼠のように、ターンテーブルの下を通り、俺の足下へやって来た。
知っている、俺は飲まれる。この涙に、なす術は無い。
俺は決して目を瞑らずに、その大粒の涙を睨む。冷たい白の床の上、ぷるぷると、涙が揺れる。
実存を蝕み、微睡みに誘う、濃密で重い濁流。この記憶の圧縮物は、俺の瞬きを待っている!
「ねぇ」
前から女の声がする。迷い、涙から目を逸らす……
何か、変わった気配はしなかった。床の涙は消えている。
何が違う?
……ああ!向かいに座る王女の顔は、平たく茶色い木の「しゃもじ」!
もはや物言わぬ「人形」ですらなく。
水音。
足元は水浸しで、スニーカーは水を吸っている。
(ああ、雨の日のドレスコードは知らなかった。)
雨後。
彼女と歩いた竹林の、深い水溜りを思い出す。
――Don't be ridiculous.
そこに飛び込んではいけない。少年は彼女にそう言った。
"Your mother will get angry with you."
(ママが怒るよ)
それを聞いて、彼女は笑う。
"Maybe. But that's not a problem!"
(たぶんね。でも、大丈夫だよ!)
そして、彼女は無邪気に水溜りへ足を踏み入れた。
濡れて輝く林間の、隙間から差す眩しい陽光。
その光を反射した、泥を含んだ水飛沫。
ああ、記憶の、断片。
彼女は振り返り俺を見る。その瞳には、僅かな緊張、期待と誘惑。
(Stop it. You will weep coming home.)
君は帰り道で泣くことになる――俺は少年に、そう言いたい。
強張りながら一つ飛び、少年は彼女の隣へ立とうとした。
足が水に着く、その瞬間、視界が陽炎のように揺らめき、俺はまた元の部屋へと引き戻された。
ステンドグラスから差す光が少し夕焼けの色を帯びた部屋で、キュルキュルと、少し軋んだ音を立てて、ターンテーブルは回っている。
長い沈黙。俺は「しゃもじ」と向き合うばかり。
しかし、思った。
(君の顔が無くなって良かった。前は、違った。)
もし今の君に顔があるなら、あの靴が泥に塗れる頃には、かつての輝きを隠した虚ろな目で俺を見つめて、幼さを恥じる巧妙な口で言うのだろう。
「馬鹿みたい」
身の毛もよだつ浅はかな「深み」。空転する記憶と、それに伴う孤独。願ってもいないのに濁流のように押し寄せ、避けようもなく俺を飲み込む彼女を、俺は激しく憎んでいる。その憎しみさえ、愛として受け止め俺に笑いかけるあの女を前に、俺は徐々に抵抗の意思を失い、彼女に「所有」される。それがたまらなく恐ろしいのだ。
私の先輩(詩人ではなく、ジャズトロンボーン奏者) M氏。
彼は新宿区在住。ボランティアで「新宿御苑ガイドウォーク」
というイベントを定期的に開催している。アウトドア派でもある。
ジャズ以外にも、こんな公共活動。志の高い人だ。尊敬に値する。
彼の書いた案内文に、「この公園にも、きっぱりと冬はやって来ます」
というのがあった。(なるほど)。私はその言葉の詩性に感じ入り、
返信として、その言葉を入れて以下の詩を書いた。
―そう
冬とはその季節の横顔から
“きっぱりと”来るものでしょう
この公園に棲む小動物たちは
長い冬を眠ります
花も始まりと終わりを繰り返し
今から“咲き”を夢見ます
「ヒト」と呼ばれる私たち人間は
愛しい人と手を交わし眠ります
朝は寒さに耐え
“きっぱりと”起きて仕事に向かいます
余暇には
愛しい人と手を携え歩きましょう
陽だまりを選んで
この公園 新宿御苑を
私たちは
冬という自然に
その過ごし方を
“きっぱりと”教わりましょう
東京という都会に生きてー
******************************************
静間安夫様 お言葉、誠にありがとうございました。
皆さま、一年間、誠にありがとうございました。 どうぞ、よいお年を。 では、また―。
わたしのことを
ご存知でしょうか?
現代に生きるあなた方にとって
あまり馴染みのない
名前かもしれませんね
たしかに わたしは
神々や英雄の居並ぶ
ギリシア神話の世界にあっては
目立ったエピソードもなく
控えめな女神ですから…
それでも
古代において
わたしの位置は重要でした
なぜなら
わたしの役割が
正しい歴史を
記録することだったからです
絵画に描かれたわたしが
いつも巻物を手にしているのは
そのためです
古代の人々にとって
歴史を掘り起こし
正確に書き留めておくことは
何にも増して
大切なことでした―
過去のあやまちを
決して繰り返さないために
そして
自分たちが苦難の中で
営々と長きに亘って
築き上げてきた文化を
後の世に引き継ぐために
ところが
一口に言って
歴史を正しく記録する、とは
容易なことではありません
「自分自身の利害と無関係に
善悪を持ち込まず
無色透明な尺度によって
いささかのバイアスもかけることなく
過去を振り返って叙述する」
そもそも、そうしたことは
いかなる人間にとっても不可能です
ですから
古代ギリシアやローマの歴史家は
「神の視点」から超越的に
歴史を記録することができる、
クレイオー、すなわちわたしに
助力と加護を願いながら
自分たちの仕事を遂行したのです
以来、わたしは
歴史的な真実に
たどり着こうとして
懸命な努力を
続ける人間たちを見守り
ときには助力を与えてきました
たとえば
トロイの遺跡や
ツタンカーメン王の墓を
発掘できたのは
もちろん、考古学者たちの
情熱と行動力によるところが
大きいにしても
最後の段階で
彼らに霊感を与え、
その場所を見出させたのは
何を隠そう
わたしなのです
それだけではありません
戦争と革命の
過酷な嵐が吹き荒れた
前世紀の記憶を
埋もれさせないためには
悲惨な体験をした人々の
証言が欠かせません
ただ
できれば忘れてしまいたい―
そうした記憶を敢えて
呼び起こしながら語るのは
どれほど当人にとって
つらいことでしょう
そんなとき
そうした立場の人たちを支えて
悪夢のような記憶に
向き合う勇気を与え
一歩踏み出させるために
背中を押すのも
わたしなのです
このようにして
人間たちを助けるのには
理由があります―
それは
歴史家をはじめとした
多くの人々の誠実さに
わたしが心を動かされたからなのです
死すべき存在である人間たちが
世代から世代へと引き継ぎ
紡いできた歴史こそ
人間のアイデンティティに
他ならない―
そう確信し
またそれゆえに
正しく再現して
書き残そうとする、
その誠実さに
心を動かされたからなのです
ところが
こうした純粋な熱意を
示す人々がいる一方で
人間たちの中には対照的に
歴史を恣意的にゆがめる者も
後を絶ちません
特に情報氾濫の世の中で
真偽の見定めがたい言説に
振り回されている
今、この時代において
その弊害は深刻です
ジェノサイドのような
不都合な歴史を
抹消しようとする独裁者、
自国の負の歴史を
正当化する政治家―
法外な力を手にしたと
勘違いしている彼らは
すっかり傲慢になってしまい
真実を踏みにじることの危険に
まったく気づいていないのです…
そればかりか
そうした指導者の思想に
心酔する人々も少なくないのです
ですから、ここで
古代人たちが
どうして
あれほどまでに
歴史の真実を継承することに
こだわったのか?
もう一度
思い出してみる必要があるでしょう
それは
歴史から学ぶことなく
歴史の教訓を
生かさなかったものたちの多くが
やがて
歴史そのものに裏切られて
滅んでいく過程を
しばしば目にしていたから、
という事実を
ゆめゆめ忘れてはなりますまい
三浦志郎様
本年は、いつも私の詩にお目を通して頂き、誠にありがとうございました。
その度に温かいコメントとアドバイスを頂戴し、厚く御礼申し上げます。
今後とも、何卒よろしくお願い致します。
どうかよいお年をお迎えください。静間安夫