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「喪失と成熟の節理」上田一眞さん
上田さん、こんにちは。すっかり初夏の陽気ですね。
作品拝読しました。佳作一歩手前です。
まず最初にお伝えしたいのですが、この作品は上田さんにとってとても大切な作品、島さんの言葉をお借りすると代表作のひとつになるようなものだと思います。もちろん、自分の作品ってどれも大切ですが、特に大切に手を入れて欲しいと感じるものでした。
上田さん自身、きっとどうやって構成しようか、どうやって読む人に伝えようか、とすごく考えて試行錯誤されたのかなと推察しています。冷静に淡々と書きたい、という気持ちがあったのではないかしら。その一方で溢れる思いが字間から見え隠れしていて、内容の重さに対して、抑えられた感情、そうした全体のバランスがとても取れています。
ただ、その気持ちが少し強かった分、「思う」「思った」「思った」が最後三つ重なってしまったようです。そこがすごく残念でした。前半にも一箇所出てきます。全部なくすか、ひとつ残すか、ということで、ひとつ残すバージョンでやってみますので参考にしてください。
<おとな>になるとは
成熟するとは
哀しい事柄なのだろう
生きとし生けるものにとって
(ここに入っている連はそのまま)
直感的にそう思った
傷ついた心を癒やそうと
夜空を見上げ
星々の煌めきに包まれた時に
そして
(中略)
何かを失ったのだろうなと
あくまでも参考に。思うは減らしたほうがいい、というのは提案で、上田さん流にやってみてくださいね。
「なかよくね」じじいじじいさん
じじいじじいさん、こんにちは。
一年生が仲良く歩いている季節になりましたね。じじいじじいさんのお近くでは一年生以外も黄色い帽子をかぶっているのかな?この辺りでは一年生だけなんですよ。
ランドセルや通学用の帽子をチューリップに見立てているのはとても素敵ですね。一年生の初々しさもチューリップから溢れています。後半、「わたし」が学校が嫌いだ、という部分で、作者が一年生でないことがわかります。語感から察するに二年生なのかなと想像しています。じじいじじいさんはひらがなで書くと決めておられるので、これについてはお伝えしても仕方ないかもしれませんが、二年生ならやっぱり漢字が混じっているほうがいいかもしれません。そこに重みが出るので、より伝わるかもしれないと感じます。
佳作一歩手前です。
「人として生きる」相野零次さん
相野さん、お待たせしました。
人として生きる、そうして神に戻るのですね。
すごく面白い発想です。まず、天使の羽、悪魔の尻尾、そうか、悪魔には尻尾があるんだなとか素直に物語を読んでいるような気持ちになりました。短い作品なのですが、そうした力がありますね。一方で、短い作品だからこそ、細かいところに少し配慮が必要です。
例えば、一連目ですが、この連はこの作品を象徴していてグッと心を掴んでくるのですよね。ところが、私は実際にここで迷いました。
僕は 失くした天使の羽を、なのか、僕は失くした 天使の羽を、とどっちにもとれて、三行目四行目まで行ってから判断しました。これってね、すごく勿体無いと思うんです。すごくいい部分だから一気に物語の中にどっぷり浸かることができるようにしたいなあって。すごく小さなことなのですが、短い作品だからこそ目立ちます。
それで次回から、実際に声に出して読んでみてください。そうして細かく修正してみていただけたらと提案したいです。
「しかめっつらのピエロ」ふわり座さん
ふわり座さん、こんにちは。
ピエロさんの恋の行方を追いかけて、そわそわドキドキしてしまいました。
「願ってもないことだ」につい微笑んでしまいました。この展開は面白かったですね。
勿体無かったのは、「女の子」「彼女」「あの子」「その子」と出てくるのですが、それがちょっとこんがらがって、「ちょっと待って、ちょっと待って、どっちがどっち?」となりそうです。少し工夫が必要みたいなのですが、どうしたらいいのかなと私も悩んでいます。一つの案としては「あの子」を「彼女」に統一する。女の子=その子の部分も、わかりやすいように、もう少し改行して整理してみるといいかもしれませんね。
そこが一番気になりました。
ふわり座さん、書く作品のバラエティが広がってきましたね。すごくいい傾向だと思います。次回も楽しみにしていますね。佳作二歩手前でした。
「幸先のいい朝」温泉郷さん
温泉郷さん、こんにちは。お待たせしました。
うん 素敵な作品!と最後に同じリズムで口ずさみました。とても良いですね。構成も良いし、リズミカルで、そして、なんと言ってもストーリーが良いです。小さな幸せが詰まって、良い朝を始められたこと、一連目においておいた憂鬱さを吹き飛ばしてくれたのですね。絶対良い日が始まりそうです。今回初めてでしたので、評価はつけませんが、気持ち良い作品で心に残りました。どうもありがとうございます。
「走る意味」大杉司さん
大杉さん、お待たせしました。今回のトリは大杉さんです。
この作品の最初の二連がとてもいいなと思いました。何かが始まるんだろうと思わせるような静けさが漂っています。三連目が起点になって、四連目から変化がつくのですよね。この変化が少し唐突に感じたんです。それで、一番簡単な直し方として考えついたのは、四連目を少し入れ替えることでした。ほら前向いて〜からの二行を前に出して四連にして、生きる意味とは何?からの三行を一連増やして五連目とする、といいかなって。三連目の「走り出す」からのつながりが自然に感じられるかもしれません。小さなことなのですが、起伏という意味でもそのほうがいいような気がします。お好みなので、ちょっと考えてみてくださいね。あくまで提案です。佳作二歩手前です。
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今日は半袖を着ています。新緑が美しくなってきましたね。
季節の変わり目、新年度も始まって、疲れも溜まってくる時期ですね。
みなさんどうぞお身体に気をつけて過ごしてくださいね。
今日もお疲れ様です♪
いいな いいな
どこにでもいる 隙間くん
あっちの路地にも そこのガード下にも
向こうでいちゃつくお二人さんにも
隙間くんが
素知らぬ顔して ちょこんとお邪魔をしているよ
お空では 雲と雲とに挟まれて 下界を眺める隙間くん
時には寂しい顔をして 俯いているんだよ
隙間風が 身に沁むこともあるけれど
隙間くん居なければ 息苦しくもなっちゃうよ
あすも あさっても
この隙間くんと
仲良く仲良く 生きて行く
僕自身も 隙間くんとなって
あなたの横に
ちょこんと いたい
妹とふたり
浜沿いにある丘まで砂利道を歩く
お目当ては 木苺
実の割に大きめのつぶつぶがある
天然のラズベリーだ
お兄ちゃんこれ食べられる?
あぁ みいちゃん
それは駄目
よぉ〜く見てごらん
つぶつぶが小さいから 蛇苺
食べたらお腹痛くなるよ
海岸段丘の端 灌木の中
白い花を咲かせた後で紅い実をつける
珠玉の木苺
野薔薇の仲間だけあって
棘々がいっぱい
夢中になって
集める兄妹の両手は傷だらけだ
渚へ行って潮の香 漂うなか
木苺を海水で洗う
みぎわの小波に
引っ掻き傷がちょっぴり滲みた
お兄ちゃんいっぱい採れたね
妹は籠のなかを覗き込み
小さな掌で木苺を掬った
顔中を口にして
頬張った
口の中を真っ赤に染めて
頬張った
可愛い笑顔いっぱいに
頬張った
みいちゃんよかったな
じゃけど
食べ過ぎると口の中が痛うなるよ
それに潮水で洗ろうたから辛いじゃろ*
いっぱいあるから
お母ちゃんへのお土産にしよっ
帰り道
しおからとんぼが音もなく
ツイと飛んで来て
妹の麦わら帽子にとまり 翅を休める
そして 僅かに首をかしげた
兄が指でくるくる輪を描いて
とんぼの目を廻そうとする
妹もいっしょに目をぐるぐる…
笑い声で
一瞬 時が弾けた
もうすぐ
彼女の好きな夏の到来だ
ぴぃ〜ひょろろ
浜風に乗って
高い空にとんびが啼いた
見上げると空に広がる無限の蒼
天壌無窮の光が
目いっぱいに飛び込んで来た
七月生まれの妹に
六度目の夏が来る
*山口弁では「辛い」も「塩っぱい」も
「辛い」と言う
ひとつだけ魔法が使えるなら
何でもチョコに変えられる魔法がいい
世界中の爆弾と弾薬と弾丸を
全部チョコに変えたいね
爆弾は大きな固いチョコ
弾薬はサラサラの粒チョコ
弾丸は丸くて食べやすい一口チョコ
撃っても 撃っても
チョコが飛んだり 散ったりするだけ
相手もチョコを撃ってくる
相手のチョコを舐めてみて
あれ 相手のほうが上等じゃないかって
悔しくて
もっといいチョコ作りたくなるんだよ
できあがると
どうだ いいチョコだろうって
相手にプレゼントしたくなるんだよ
戦車も戦闘機も空母も
みんなチョコに変えたいね
戦車はキャタピラーが溶けて止まってしまうし
戦闘機は翼が溶けて落ちてしまうし
空母は底から溶けて沈んでしまうから
誰も乗らなくなるんだよ
もったいないから
少しずつ兵士みんなで解体して
世界中の子どもたちに配るんだよ
人を傷つけたり
見下したり
ばかにしたりする言葉も
全部チョコに変えたいね
ひどい言葉が出かかると
口の中にチョコが広がって
優しい言葉に変わるんだよ
嫌いな人がいなくなり
誰も人を傷つけなくなるんだよ
そうなれば
爆弾も戦車もいらなくなるんだよ
魔法もいらなくなるんだよ
時間の影
静かに 移り行く
昨日の 悲しみ
昨日の 喜び
そして 影
定めも なく とまどう 影
私の 影
移り行く 影
時間とともに 私 去る
どこまでか
悲しみの 向こう
静かなる 場所
陽の当たる あなたの 影
共に移り行く
明日の 幸せ
あなた 笑っている
満面の 笑顔
わたし しあわせ
あなたと ともに
生きる 幸せ
今日も 明日も
私たち
手をつなぎ
静かに 歩く
永遠の 通る
並木道
静かに 静かに
緑 光る
空も飛べそうな気がするけど
あばらわなわな震える季節、春
いくつになっても慣れない
ふらつく陽気が
居心地わるいから愛しい、春
桜とビラ舞う大学通り
服に着られた青年はおどおどと
期待と不安にぷくりと膨れた
水まんじゅうみたいな瞳揺らして、春
だれも気に留めないあざを
大げさに隠すから空回って、春
気疲れしてよろよろと歩く彼
街を縫う引越しトラックに
轢かれそうになって
はっと吸い込んだその空気が、春
肺から入った春が 動脈に溶けてゆく
血液がとんとんと こめかみを叩く度
毛穴から昇るかぐわしさに気づくだろう
指の先まで春が行き届く瞬間
その一瞬を忘れないで
冬のしんがりが身体から去って
君はようやく 真に春を迎えるんだ
その時はじめて 春はやわらかく君に立ちはだかるだろう
四月のゆらめきに
自分を丸ごと揺すぶられる錯覚が
夜毎やってきても
変わらないこと 変われないこと
自分に変えられる本当にわずかなこと
それを見失わないこと
怒った肩をそっと下ろして深く息をしよう
そうすれば こめかみから花が香ってくる
そう、その調子
なあ青年、
君は今 青くて眩しくてかぐわしくて…
まるで春そのものなんだ
だからこそ 今君の感じる景色は
こんなにも鮮やかなんだよ
時に痛みすら覚える程に
なあ青年、その痛みを愛せよ
大丈夫さ 君が今からゆく先は
君の人生で一番きれいな、春
夏生様、いつも評をしていただいてありがとうございます。
街の中でワイワイ遊ぶのもいいけど、ぼーっと何かを思い出しながらひとり散歩するのもいいものだよなという気持ちで書きました。
表現をお褒めいただきありがとうございます。嬉しいです。
散歩中の爽やかな気持ちとふわっと浮遊するような気持ちをこの詩を通して感じていただけていたら、嬉しく思います。
佳作の評もありがとうございました。
また投稿いたしますので、よろしくお願いします。
黒か白か
白か黒か
肌色に近い赤か
波にゆらめく生命線
分断しては繋がり
溶けこむ
下降線と上昇線
鏡の前で無理やり
口角を上げようと
努力する人のように
Uの字を描いては
徐々に薄まり失せる
不確かで確固たる
鼓動の果てにて
詩の構造について教えていただきありがとうございます。目から鱗が落ちるとはこのことかと感じました。読み手に伝わる詩がなかなか書けない理由が一つ理解できました。私の詩には枠組み(身体)がないのです。これまで初連の大切さについて意識したことがありませんでした。詩の出だしは比喩を置かないようにしたり、ゆっくり表現してみたりして読む人とイメーシを共有することを意識して描いてみます。
実はこの作品は被災地の避難所に届けられるたくさんの千羽鶴がゴミになってしまい、避難所暮らしをしている人達の負担になっているという話を見聞きした時に生まれたイメージです。ごちゃごちゃ考えているうちに場所が病室になってしまいました。
アドバイス通り改めて書き直してみたら、私自身の詩に対する景色が一段階広がったように感じます。貴重なご助言重ねてお礼申し上げます。
少し反応が悪くなっていたスマホに
いきなり砂嵐が吹き荒れた
砂嵐は砂嵐らしくつぶつぶの砂を
画面に部屋中に撒き散らしている
そのままその砂嵐は私の
目覚ましの音楽を単調に流しはじめた
ああ誰かが私を呼んでいる
砂嵐の奥から
私を起こすことを仕事にしていた
目覚ましが私を優しく呼んでいる
私の事を覚えていると言いたいのだろうか
義父は 危篤状態になり私を忘れてしまったというのに
先週のこと主治医から
血圧が50を下回ったので
来てくださいと呼ばれ病室に通された
私は義父に呼びかけた
私のこと分かる?
義父は首を横に微かに振る
春休みなので今日は子供も一緒だ
子供の顔を見せながら分かる?
と同じ問いをする
すると義父は
確かに聞こえるか聞こえないかの音で
はあっと言ったのだ
血の繋がりとはこんなものなのだろうか
私には義父の血は入っていない
顔つきやら仕草やら似てないということだ 1ミリも義父ではない
ただ孫はやはりどこか義父なのだろう
私に向けては出ない音を声を
義父は孫の顔を見ながら はあっと出す
お前のことが分かる
そんなメッセージだろう
体重38kgすっかり痩せ細り
見る影もない体から 確かに微かに
意志を持って出た音
そんな事を思い出しながら
私は目の前にある砂嵐の画面から
鳴り続ける私に向けた
目覚ましの音を受け止めている
大丈夫 私はあなたの最期を見届ける