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泥と埃にまみれてる
安全靴と作業着に
マフラー代わりのタオルを巻いて
コンビニの前 座り込む
言い訳混じりの「とりあえず」
ワンカップの蓋 開けたなら
少し震える軍手で包み
その手が何だか笑えるよ
半分ほどを一気に呑めば
疲れた身体が情けなく
深く深いため息を
吐き出す息は酒の歌
徐に空を見上げれば
まだ夕刻なのに星の空
今度は何かを諦めて
心の奥からため息を
片膝に手を当てがえば
よっこらせっと立ち上がり
残った酒を一気に呑んで
鼻息 荒く酒の歌
片手に持ったコンビニ袋
今夜の飯とワンカップ
少しばかり温もる身体
誰も待たない部屋へと向かう
ただ生きていると言う勿れ
ただ生きていると言う勿れ
呪文のように唱えて歩き出す
ワンカップと飯を買う為に
身体に鞭打ち働いて
赤みを帯びた頬緩む
もう少ししたら賑やかな月
もう何十年も昔の記憶
セピア色の写真で浮かぶ
妻や子供とサンタクロース
たった一度の過ちが
たった一度の浮かれた馬鹿が
許されない裏切り馬鹿野郎
頭をよぎる後悔の念
男はただただ振り払うよう
頭を左右に何度も振って
やがて道の隅を歩きだす
街頭に照らされコマ送りのよう
映し出される後ろ姿は
今日も生きた男の背中
過去の過ちを背負う背中
償いさえ無い男の背中
とある休日
駅前に買い物に行った帰り道
ふとコーヒーが飲みたくなったけど
どこのコーヒーショップも満員
こういうときは
少し歩いたところにある
コンビニのイートインで
コーヒーを飲むことにしている
備え付けのコーヒーマシンから
出てくるコーヒーは
値段は安いけど なかなかのものだし
長いこと居座っても
白い目で見られることもない
今日もコーヒーを飲みながら
買ったばかりの文庫本を
さっそく読み始めよう…
などと思いながら
いざコーヒーを手に
イートインにはいってみて驚いた
8畳くらいのスペースに10席ほどある
結構広めのイートインなのに
ガラガラなのだ
いつもは そこそこの人数の
先客がいるのに…
理由はすぐにわかった
窓側の席に陣どった
年輩の女性客の様子が
尋常ではないのだ
伸び放題の白髪は
肩から背中に垂れ下がり
顔にも被さって
表情もよくわからないほど…
戦時中の婦人たちが身につけていた
モンペのような服を
痩せ細った身体に着ているのだが
これがすっかり色あせて
シミだらけ
傍らのテーブルの上には
大きな風呂敷包みが置かれ
この包みに 折り畳み傘だの
ニット帽だのが結びつけてある
針金のような身体で持ち運ぶのは
さぞや大変だろうに
しかし何にも増して異様なのは
ひっきりなしにブツブツ ブツブツ
誰に語るともなく
独り言を話し続ける
彼女の有様だ
どの客も この女性を気味悪がって
イートインを出てしまったのだろう
今やこの空間には
彼女とわたしの二人だけだ
わたしは少々へそ曲がりなので
あっさりと最初のプランを放棄して
テイクアウトに切り替えるのは
逃げ出すみたいで気が進まない
例の女性から ふた席ほどあけて座り
文庫本を片手にコーヒーを飲み始めた
けれども内心は
ひょっとして
話しかけられたらどうしよう?
と、ハラハラしてしまい
コーヒーを飲む間隔が
いつもに比べてついつい短くなり
文庫本の中身もあまり頭に入ってこない…
と、そのとき
老女の話す言葉の一つが
わたしの注意をひいた
「平和の里公園」
彼女ははっきりとそう言ったのだ
ここから歩いてもそう遠くない
四季おりおりの花々が楽しめる
わたしのお気に入りの公園だ
その瞬間 思わず知らず
わたしは彼女の独白の
聞き手になっていた…
「やれやれ!
今日は久しぶりに
あの公園のベンチに座って
深まる秋を楽しもうと思ったのに…
あんなに人出があっては
のんびり座れるところなんか
見つかりゃしない !
だけど
あそこで紅葉やスポーツを
楽しんでる連中は
きっと誰も知らないだろうさ
戦前、あの場所が
政治犯や思想犯を
収容する刑務所だったことを
お花見でにぎわう あの桜並木だって
元はと言えば
刑務所の塀ぎわに植えられていたものさ
桜の樹と刑務所の組み合わせなんて
これから入所していく連中にとっては
よほど残酷に感じられるだろうよ!
ましてや
彼らは まっとうな言論という手段で
時の政府を批判したのにさ
テロリストでもなんでもない!
自由な思想の持ち主というだけで
目を付けられた人たちだって数知れない
あの有名な哲学者の○○□なんて
不運の極みというものさ
刑務所に入れられた後でさえ
人間解放のための独自な思想を
営々と構築し続けたのに
結局獄中で病死してしまった…
それも終戦のあと、すぐに釈放されていりゃ
きっと亡くなることはなかったろう
いったいなんだって一月半も余計に
牢屋に入れっぱなしにしたんだい!
むちゃくちゃな話じゃないか!
それからすると
ずいぶん時代も変わったね
今、この国には
治安維持の悪法なんてとっくにない
誰も彼も自由に自分の意見が言える
政治犯や思想犯、なんて言葉は
もはやこの国では死語になっちまった
だけど、その分
語られる言葉も思想も
すっかり軽くなったよ
それどころか
みんな同じようなことしかいわない
自由に発言できるはずなのに
こりゃあ、それぞれの人間の
知的怠慢でなくして なんだろう!
こういうのを平和ボケって言うのさ!
でも、多少ともまともに
ものを考えられる人間だったら
わかりそうなものさね!
今、この国を覆っているのが
見せかけの平和だってことくらい
経済の格差は広がる一方
洪水だの地震だの災害が相次いでいるし
世界中のあちこちで戦争が起きている
今こそ骨太の思想を
紡いでいかなきゃいけないのさ
よりよい社会を作るために!
きちんとした処方箋なくして
行動を起こしたところで
結局混乱をまねくだけ
わたしが学生運動やってた頃は
先輩も友だちも
デモで街を練り歩いていただけじゃない
いっぱしの思想家たらんと
経済も政治も文学も
よく勉強していたものさ」
老女は相変わらずしゃべり続けている…
今でこそ幽鬼のような姿(失礼!)を
しているけれど、きっと若い頃は
颯爽たる学生運動の闘士だったのだろう
それに、あの「平和の里公園」には
思いもかけない背景があることを知って
わたしは勉強不足を恥じる気持ちになった…
と、突然このとき 女性の鋭い視線が
わたしを捉えた―顔にかかった髪の間から
こちらを見つめている眼に
すっかり射すくめられてしまった
すると老女は自分の席を立って
わたしのところまでにじり寄り
文庫本に目をとめて
「この世界の名詩集
わたしも学生のころに読んだよ
どの詩も素敵な日本語に訳されていて
一度読んだら忘れられないものばっかりさ
そこに確か『パトモス』という題の
詩が載っているはずだよ
そう、それそれ、ちょっと見せてごらん...
ここの
『危難のあるところ
救いの力もまた育つ』
って、いい言葉だろう!
まるで哲学者の○○□のことを
言ってるみたいじゃないか
困難な運命に見舞われてなお
この国の思想史に残る仕事を
生み出したのだから
いや、見舞われたからこそ
なのかもしれないね」
そう言うと
彼女はくるりとわたしに背を向けて
大きな風呂敷包みをひっつかむと
軽々と持ち上げて、一陣の風のように
店を出て行った
その瞬間 わたしは正直
緊張から解放された
でも、それといっしょに
不思議と充実した気持ちが
心に湧き上がってきたのもほんとうだ
さっき、コーヒーをテイクアウトにしないで
イートインで味わうことにしてよかった、
しみじみ そう思えたのである
ありがとう 声に出して呟いてみる
家族がいるから 小さな声で何度も
少しメロディーをつけて
ありがとう 同じように
これは言葉遊び 意味のない言葉遊び
意味のないことに意味をもたらすことのできる
物語のない言葉に始まりと終わりをもたらすことのできる
そんな詩人に僕はなりたい
もはや詩人という枠組みを超えて 超人となって 神となって
でもやはり最後は詩人として僕は戻ってきたい
ただいま みんな返ったよ? ただいま まだ起きてた?
なんて優しい言葉で囁きかけて
もう寝てる子もいるね 布団ちゃんとかけてあげないとね ごめんね もう騒がしくしないから
僕の部屋には一本の立派な木があって
クリスマスには飾り付けをしたりする 僕もこの木も生きている
この木があるかぎり僕はひとりぼっちじゃない
木は物理的には数メートルの高さしかないが実際は数十メートル、雲を突き抜けて、数百メートル、夜空を飛び越えて存在している
それは夢の話? 絵空事? たわごと?
そんなことどうでもいいんだ
僕がドナルドでもピーターパンでもそんなことどうだっていい
くまのプーさんの殺人鬼でもかまわないんだ
あれは笑っちゃったよ
僕はみんな……そして僕自身、に届けたいのは優しさと強さ。
優しさだけが欲しいと思ったこともあったけど、それだけじゃだめなんだ。優しさを守るための強さが必要なんだ。
それはなぜか? 悪い人がたくさんいるからだけどそれだけじゃない。悪い人のなかにほんとうの優しさがあったりするんだ。それは守らなくちゃいけない。やっつけるだけじゃだめなんだ。
そして僕が悪い人をやっつけているとき、みんなは自分で自分を守れなきゃいけないときもくる。そのための強さも必要なんだ。
だからみんながんばろう。そのための力を身に着けよう……じゃあ話は終わらないんだよね。
例えばさ、今、僕の書いてるメッセージを読んでくれている人の頭の上から核爆弾が落ちてきたら防げますか? ……無理でしょう、おそらくは。迎撃システムがある? 間に合わないでしょう。隕石がおちてくるかもしれない。
こんなたとえ話は笑い話と変わらない。それぐらい、死っていうのは健康に生きている人間にはほど遠いもの。でも、今の僕には割と身近にあるもの。僕はみんなに守られなければ生きていけない人間なんだ……でもそれは……僕ひとりじゃないんだ……僕にだって守れる存在があると思うんだ……そう信じたいでしょう?
だから僕にはお気に入りのぬいぐるみがあるんだ。さっきも言ったよね? ドナルド、ピーターパン。くまのプーさん。やさしいほうだよ、もちろん。
僕は毎日、みんなを守って一緒に寝ているんだ。いつもありがとうって? いえいえこちらこそありがとう。
……もう外は真っ暗だね、今何時だろう。眠たくなってきちゃった。
……そうだね、そろそろ寝ようか。
じゃあ最後にもう一度。誰が考えたのか思いついたのかわからないみんなを笑顔にできる魔法の言葉。
ありがとう。
僕はこの言葉を信じて明日へ託そうと思います。
ではこのへんで。
おやすみなさい。
最近スランプだったのですが、
ちょっと自分のスタイルを見直して、脱出できそうな気がします。
新しい詩集も買いました。
他の人の詩も、読み返したりしてます。
詩は手軽に楽しめる分、なげやりになりがちな部分ができてくるのかなと思います。
六人きりのサークル
絵本の読み聞かせをしています
ひと月に一度 二人組か三人組で
近くの保育園を訪ねます
最高齢者は 八十歳台
第二次大戦もご経験
いろいろを見られたことでしょう
絵本は 柔らかく温かく読まれます
その方はさながら お話そのもの
今いる場所は
いつものお部屋か絵本の中か
吸い込まれるように
みんな お話の中を進みます
今月は 一緒に回る輪番でした
幻想の空間を思い浮かべて
楽しみに 出向きました
着くと
その方は お休みでした
体調が今一つ
ご主人から 休んだら と
ご挨拶だけはメールでしようと
こんにちは の後に続けて
残念ですが
と書いたところで そのまま進めずやめました
言葉が違う
風邪をひいたり 用事のために
今回だけのお休みなら
残念ですが
で納まりますが
根底にある私の気持ちは
来てくれる回があるだけでいい
これまでの急のお休みにも
ごめんねーと 気品をたたえて
いつも通りの優しい微笑み
特にがっかりする訳じゃない
私たちもいつも通りに
お気になさらず できる時にね
お年をこれだけ重ねていれば
来てくれる回があるだけでいい
一緒にやってくださるだけで
残念は あるはずもない
絵本を読む私の声も
どこかで聞いてもらえる気がする
そこに姿は見えなくても
びょういんでねているじいじ
じいじがもうすぐてんごくにいく
びょういんのせんせいがはなしてた
おとしよりでびょうきでなおらない
だからしかたないとママがいった
しかたないって?どういうこと?
びょうきなおすのがびょういんでしょ?
ママにわたしがおこっていった
ママはなきながらいった
「じいじはびょういんでもなおせないの
おもいびょうきなの」
わたしはなみだがいっぱいでてきた
「じいじしんだらダメ!なおって!
またあそんで」
「じいじはがんばってる」
「だからじいじをおうえんして」
ママはわたしをギュッとしていった
わたしのだいすきなじいじ
わたしのことだいすきなじいじ
ぜったいびょうきなおしてね
あるひ じいじがゆめにでた
じいじがわらってわたしをみてる
わたしがじいじをおいかけたら
じいじはうしろをむいてどこかにいった
そのひのあさ.....
わたしのまくらのそばに
じいじとわたしでとったしゃしんがあった
ふたりともわらっている
わたしはじいじに「ありがとう」といって
しゃしんをギュッとだっこした
ひゅぅらり ひらり 湖面にて
ひとりの少女が踊る 踊る
真白のスカート翻し
片手に揺らすはワイングラス
中身ははてさて毒かしら?
いえ いえ ただの甘味です
でも でも 誰も信じない
毒だと信じて疑わない
クラスメイトも友達も
実の親でさえ信じない
ほんとがうそに成るのなら
嘘をつくほかないでしょう
なので本当にすることに
中身はすり替えておきました
からぁん かぁらり
堕ちるは涙?
季節外れの雨かしら?
少女の煽るワイングラスの
中身は猛毒 ああいたわしや
湖面に頽れる白い布の
なんと優しすぎること
駆けつける者はひとりとおらず
しっとり湖中に沈み行く
いずれこの水は毒となれ果て
多くの者をば地獄へと
それでもそれは自業自得
たったひとりの少女をあやめた
我々の罪でございましょう
ためしに一口 ひとすくい
ひゅらりと逝った彼女の遺した
苦い 苦い 雨の味
約2年ぶりの投稿となりました。
再び励みたいと思います、どうぞよろしくお願い致します。
水兵ソデビーム氏は
今日もその勤めに粛々と励んでいる
アスファルトグレーの海原が広がる
彼の担当する区域は
船の行き来が絶えない場所にある
船に乗った小人たち
一人一人の顔をうかがいしることはできない
船首とマストが強く自己主張している
没個性で人間がそこに描かれていない
ソデビーム氏は休みなく立ち続けながら
そんな船たちを眠らず見送っている
何もないことが多い
何もなければいい
自分はここにいるだけでいいのだ
何もないことを祈り
そこに立ち 見守り続ける
人からは名前を忘れられ
人からは目的を忘れられ
感謝の言葉などかけられることもなく
それでも立ち続ける
勤めとはそういうものかもしれない
有事の際に 彼は「守る」ために立つ
暴れ狂った船を受け止める役として
暴れ狂った船が人を傷つけないように
暴れ狂った船の中の小人をより傷つかないように
誰かを被害者にも 加害者にも
これ以上させないために我が身を犠牲にする
彼は知っている
起こってしまったことは取り消せないのだと
小人たちは仲間同士で花をみせあう
アスファルトグレーの海が
太陽にせせらぎ光に満ちた日には
彼だって 彼等だって 小人だって
同じように目を細める
鉄面皮の下で何よりも敬虔に愛を信じているのだ
酷暑にも 厳寒にも 耐えて
彼がそこにいるのは
彼の務めであり、愛であり、信仰に他ならない
※ 本来、ここまで書かない方がいいとは思いますが、評がしやすいよう明記しておきます。
袖ビーム……ガードレールの画像に乗せた丸くカーブした部分です。
小さな祐はお魚が大好き *1
きらきら光るバリゴが欲しかった *2
祐のおじいちゃんは悲鳴を上げた
それ触っちゃ駄目!
背びれに鋭い毒針を隠しているバリ
バリゴは小さくても凄腕の殺し屋だ
小さな祐は半べそで
必死になって叫んだ
たけすて〜(助けて) *3
*
あれから三十年の歳月が流れた
ここは房総半島 野島崎
祐と ひぃさん(祐のお嫁さん)と 私
三人で釣りに来た
バリゴが一匹サビキにかかった
お〜い 祐
たけすて〜(助けて)
祐は苦笑いしながら
駆け寄ってバリゴをはずしてくれた
台風の余波もあって風強く
釣りにならない
場所を変えて
風の当たらない小さな波止場に来た
潮は大潮 潮通しがよく
濁りがあって海中がまったく見えない
餌取りの小魚もいない
二時間ばかり粘ったが当たりがなかった
祐とひぃさんは
腰を落として何やら相談をしている
そのとき
ボチャ!
あっ とひぃさんの悲鳴
祐がスボンの後ろポケットに差し込んだ
スマホを海に落してしまった
・・・
・・・
おもむろに
祐はタモ網を取り出し
海中を探り始めた
水深は二メートル余
タモ網がようやく届く深さだ
ああっ まずい!
タモ網の首から先の部分
ネットが水中で柄から外れて
海底に沈んでしまった
万事休す…
だが
祐は諦めない
短い釣り竿を取り出し
鈎のついたルアーを括りつけ
海中を探った
何度も何度も
私も助勢しようと
ルアーを海へ放り込もうとしたところ
祐がうまくネットを探り当て
引き上げた
ネットを再び柄の先に嵌め込み
海底をまさぐった
何度も何度も
繰り返し
繰り返し
人間の焦りを横目に
小さい海亀がのんびり泳いでいる
海水がますます濁り中はまったく見えない
潮も絶え間なく動いている
スマホの位置もよく分からず
とても掬えまい
私は
諦めろ スマホは買ってやる
と祐に言った
祐は無言
位置を変えながら さらに
海底をタモ網で掬っている
二十分くらいたった
何度海底を探ったことだろう
タモ網に光るものが入った
スマホだ!
凄い
凄い
凄い
ひぃさんは夫に飛びついた
私は倅に言った
たいしたもんだ
なかなか出来るもんじゃないよ
*
最悪の事態に直面し
諦めることなく
自分の出来る最善のことを考え
冷静に行動する
愚痴や悪口も言わず辛抱強く
善後策を考え
実行する
私は
小さな祐が成長し
立派な漢(おとこ)になったのを知った
釣りはボウズだが
祐の成長は
父にとって
素晴らしい釣果だった
*1 祐 私の長男
*2 バリゴ バリ(アイゴ)の幼魚
*3 たけすて〜 助けて
幼い祐は言葉がひっくり返った
「どうしようもないこと」と「変えられないこと」の間を 電車が走っています ふたつのことは同じなので 電車は環状に走っています 電車にはたくさんの人が乗っていて 少しぴりっとしています そんな中でも人々は わずかな隙間を見つけて そこを居場所にします
電車は毎日走ります 昨日も走りました 明日も走るでしょう 同じところをくるくると 同じ大きさの円をくるくると 一日に何回も描きます あまりに毎日おなじところをなぞられるので 線路はときどき 竜巻になりたいと考えます でも人がたくさんいると 上昇気流は起こりにくいのです
途中の駅で降りてもいいのです 電車を降りて 改札を抜けて 駅舎を出て だれでも どこへでも行けるのです でもたいていの人は そのまま電車に乗りつづけます
電車は今日も走っています 見慣れた景色 見慣れた顔ぶれ 電車は環状にくるくるまわります 車輪もくるくるまわります いつもと変わらない今日 変えられない今日 せまい車両のまんなかで ひとりの人の両の目からとつぜん 涙があふれ こぼれました どうしようもないのは知っている 変えられないのも知っている でも涙はとどまることをしらず 次から次へとあふれ出ます その人は 自分が泣いているのを人に見られるのは かまわないと思っていました ただ 「大丈夫?」ときかれることを何よりおそれていました でもその車内で その人にそう話しかける人はいませんでした
電車が駅に停まったときに その人は その涙と同じように いっぱいに いっぱいになった器から 外に飛び出しました
外は晴れていました でも 空は泣いていました 霧のように細かな雨粒が ひとつひとつ光をつつみ込んで 幾億も幾兆もふりそそいでいます それらが黄金色のカーテンを織り 陽の光はそれを透いて 目に飛び込んできます
その人は しばらくそれを見ていました ながくてみじかい間 それに見とれていました
もう行こうと振り向くと その方向には虹がかかっていました 消え入りそうに淡い色彩を塗りのばし 非現実的な壮麗さを空に掲げています
これはだれのしわざだろう あまりにできすぎているこれらの現象との邂逅に その人は笑いました 笑いながら泣きました
このできごとが 毎日も自分もなにも変えないのを その人は知っています
でもその人は 駅を出ることなく 次に来た電車に ふたたび乗り込みました
電車は今日も くるくるまわっています